
木曽漆器は、長野県塩尻市の木曽平沢・奈良井を中心に作られてきた漆器です。17世紀初頭、木曽ヒノキなどの豊かな森林資源を生かした白木細工に漆を塗り、中山道を行き交う旅人の土産物として売り出したのが始まりといわれます。明治の初め頃、奈良井で鉄分を多く含む粘土「錆土(さびつち)」が見つかりました。この錆土を漆に混ぜる下地塗りの技法により、堅牢な漆器の産地として名を高めます。木目を生かす「木曽春慶」、まだら模様を表す「木曽堆朱」、色漆で幾何学模様を描く「塗分呂色塗(ぬりわけろいろぬり)」が代表的な技法です。1975年に国の伝統的工芸品に指定されました。木曽平沢の町並みは「漆工町」として国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれています。
発祥
木曽谷は渓谷地帯で田畑が少ない反面、木曽ヒノキをはじめとする豊かな森林に恵まれていました。人々はこの木で作った白木細工に漆を塗り、中山道(木曽路)を行き交う旅人に土産物として売るようになります。これが木曽漆器の始まりといわれます。木曽町の寺院の経堂には、応永元年に漆師が献納したとの銘が残っていたと伝わります。
歴史
承応の頃(1652〜1655年)には、木曽平沢に十数戸の漆塗業者があったといわれます。江戸時代は尾張藩の庇護を受け、寛政年間には京都・大阪・江戸に取次店ができるほどになりました。明治初め、奈良井で錆土が見つかり、堅牢な漆器の産地としての地位を確立します。戦後は座卓などの漆器家具が人気を集め、1975年に国の伝統的工芸品に指定されました。
特徴
木曽漆器の大きな特徴は、錆土と生漆を混ぜた下地による堅牢さです。夏涼しく冬の寒さが厳しい気候は、漆を塗る作業に向いているといわれます。木地にはヒノキやカツラ、トチなどを使い、座卓や盆、膳、重箱、そば道具など暮らしの道具を多く手がけてきました。沈金や蒔絵の加飾も行い、長野冬季五輪のメダル製作にも携わっています。
技法
木曽春慶(きそしゅんけい)
木曽ヒノキの木地を薄紅色に色付けし、生漆を6〜8回ほど直接摺り込んで仕上げる技法です。透けて見える木目の美しさを生かし、椀や箸、曲物の弁当箱などに用いられます。
木曽堆朱(きそついしゅ)
漆をたっぷり含ませたタンポで凹凸の型を置き、色漆を12〜18回ほど塗り重ねてから平らに研ぎ出す技法です。重なった漆の層が、独特のまだら模様となって表れます。
塗分呂色塗(ぬりわけろいろぬり)
錆土の下地と中塗りを施したあと、精製した色漆で模様に合わせて塗り分ける技法です。研ぎと磨きを重ね、色の境目がくっきりとした幾何学模様に仕上げます。
使用される素材
制作工程
- 1
木地加工
ヒノキなどの木材を、盆や座卓などの形に加工する。
- 2
下地造り・下地塗り
米粉と木粉、生漆で下地を造り、錆土を混ぜた漆を塗る。
- 3
中塗
下地の上に生漆を塗り、上塗りの土台を整える。
- 4
加飾塗
型置きや色漆の塗り重ね、塗り分けで模様を作る。
- 5
研出・胴擦
砥石などで研ぎ、砥粉や炭粉で表面を磨く。
- 6
摺漆・磨き
生漆を摺り込んで拭き取り、磨く作業を3回以上繰り返す。
| 主な産地 |
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職人・工房
一丸勢漆器店
明治後期に創業した木曽平沢の漆器店。工房で漆器の製作工程を見学でき、伝統工芸士の指導のもと沈金などの漆器づくりを体験できる。木曽平沢駅から徒歩5分ほど。
うるし工房石本玉水
塩尻市木曽平沢にある漆工房。漆塗りの菓子皿などに沈金刀で絵を彫る沈金体験を受け入れており、小学校高学年以上を対象に要予約で行っている。
購入方法
- 木曾くらしの工芸館
- 木曽平沢にある物産館で、入館は無料。木曽漆器やヒノキの木工品のほか、ワインや地酒など塩尻・木曽の特産品もそろう。期間ごとにテーマを変えて商品を紹介している。購入先を見る →PR
- 木曽漆器祭・奈良井宿場祭
- 毎年6月に塩尻市楢川地区で開かれる祭り。期間中は木曽平沢の町並みに大漆器市が立ち、職人の逸品や蔵出し品が産地ならではの価格で並ぶ。2026年は6月6日〜7日に第57回が開かれた。
体験施設
木曾くらしの工芸館
長野県塩尻市大字木曽平沢2272-7
木曽堆朱の研ぎ出し体験は1,800円程度から、蒔絵体験は2,000円程度から。研ぎ出しは保護者同伴なら5歳から、蒔絵は小学生以上が対象。2週間前までの予約が必要。
詳細を見る →一丸勢漆器店
長野県塩尻市木曽平沢1762
予約制の沈金体験工房があり、料金は3,240円程度から。漆器の製作工程も見学できる。受付は9時〜17時。
うるし工房石本玉水
長野県塩尻市大字木曽平沢1692
漆塗りの菓子皿などに沈金刀で絵を彫る体験で、料金は3,500円程度から。所要は約2時間で、体験は彫りまで。定休日はないが要予約。
木曽漆器館
長野県塩尻市木曽平沢2324-150
国の重要有形民俗文化財に指定された木曽漆器の製作用具や生活用具、人間国宝の作品などを展示する。入館料は大人300円程度、中学生以下は無料。
よくある質問
Q. 錆土(さびつち)とは何ですか?
A. 明治の初め頃、奈良井駅の対岸にある薪谷沢(まきやざわ)の山あいで見つかった、鉄分を多く含む粘土です。この錆土を生漆と混ぜて下地に塗る技法が考案され、木曽漆器は丈夫な漆器の産地として知られるようになりました。
Q. 木曽平沢はどんな町ですか?
A. 中山道沿いにある漆器職人の町で、2006年に「漆工町木曽平沢」として国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれました。漆器店や工房が軒を連ね、近くには宿場町の面影を残す奈良井宿もあります。