
伊賀焼(いがやき)は、三重県伊賀市の丸柱(まるばしら)地区を中心に焼かれている陶器です。起こりは奈良時代ごろにさかのぼるとされ、地元では約1200年の歴史を持つ焼き物と紹介されています。原料は、約400万年前の古琵琶湖の湖底に積もった「古琵琶湖層」の粘土です。焼くと細かな気孔が多くでき、熱をよく蓄えるため、土鍋や行平(ゆきひら)などの調理具に向きます。桃山時代には茶の湯の流行とともに、ゆがみの大きい豪快な花入や水指が焼かれました。登り窯の炎が生む緑色のガラス質「ビードロ」や「焦げ」は、古伊賀の見どころとされます。五島美術館が所蔵する重要文化財「古伊賀水指 銘 破袋(やぶれぶくろ)」は、その代表作です。江戸時代前期の後に窯は一時途絶えましたが、中期に再興され、以後は土鍋などの日用品が主力となりました。1982年(昭和57年)に国の伝統的工芸品に指定されています。
発祥
伊賀焼の起こりは古く、7世紀後半から8世紀ごろに農業用の種壺などが焼かれたのが始まりとされます。のちには寺院の瓦も焼かれました。伊賀焼伝統産業会館は、平安時代後期から鎌倉時代初期にかけて本格的な焼き物の産地へと発展したと紹介しています。主な産地は伊賀市北西部の丸柱で、山を隔てて滋賀県の信楽と隣り合います。信楽と同じく、古琵琶湖層の土を使ってきました。
歴史
桃山時代、伊賀を治めた筒井定次や、のちの藤堂高虎・高次の時代に茶陶が盛んに焼かれました。槙山や丸柱の窯では、古田織部らの好みを反映した豪放な花入や水指が作られたとされます。江戸時代初期には、小堀遠州の指導で「遠州伊賀」と呼ばれる薄作りの器も生まれたといわれます。その後、陶土の乱掘を防ぐ制度が設けられると、陶工の多くが信楽へ移り、窯はおよそ100年途絶えました。宝暦年間(1751〜1764年)に藤堂藩の奨励で再興され、以後は行平や土鍋など日用の器が主力となります。
特徴
古琵琶湖層の土は耐火性が高く、焼くと細かな気孔が無数にでき、ざらりとした手触りになります。熱を蓄える力に優れるため、土鍋や炊飯用の鍋に向きます。伝統工芸 青山スクエアは、信楽焼に比べて硬く、やや重みがあると紹介しています。茶陶では、ゆがんだ形やヘラで刻んだ文様、灰が溶けたビードロ、炎による焦げが見どころです。こうした窯の中での変化を「窯変(ようへん)」と呼びます。
技法
ビードロ
登り窯や穴窯で焼くうちに、薪の灰が器に降りかかり、高温で溶けてガラス質となったもの。緑色の透明感ある色合いが古伊賀の見どころとされる。伝統的工芸品の基準では、釉薬や絵付けをしない場合、登り窯でビードロや火色、焦げを出すこととされている。
焦げ・火色
炎が直接当たった部分や灰に埋もれた部分が、黒褐色に焦げたり赤く発色したりする現象。同じ窯の中でも置き場所によって表情が変わる。
成形と模様付け
たたら成形(板状に延ばした土で形づくる方法)、ろくろ成形、手ひねり成形を使い分ける。模様付けには線彫り、布目、イッチン(細い口から泥を絞り出して線を描く技法)などがあり、釉薬は灰釉・石灰釉・青銅釉を用いる。
使用される素材
制作工程
- 1
原土採掘・製土
伊賀近郊で掘り出した原土を、水簸(すいひ:水に溶かして不純物を沈め、細かな土を取り出す方法)または乾式で精製し、成形しやすい粘土にする。
- 2
成形・仕上げ
菊練りで空気を抜いた土を、ろくろ・たたら・手ひねりで形づくる。乾き具合を見ながら削りや装飾を施し、天日や乾燥室で十分に乾かす。
- 3
焼成
素焼きをしたのち、ガス窯・穴窯・登り窯のいずれかで本焼きする。登り窯や穴窯では、薪の灰と炎がビードロや焦げを生む。
- 4
窯出し
焼き上がった器は、窯の中で自然に冷ましてから取り出す。窯の中の位置や炎の流れによって、器ごとに異なる景色が生まれる。
| 主な産地 |
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職人・工房
伊賀焼窯元 長谷園
伊賀市丸柱の窯元で、天保3年(1832年)の開窯。初代の長谷源治が16の窯が連なる登り窯を築いたのが始まりとされる。2000年に発売した炊飯用土鍋「かまどさん」で知られ、敷地内の「16連房旧登り窯」は国の登録有形文化財である。
公式サイト →土楽窯
江戸時代から続く伊賀焼の窯元。7代目・福森雅武さんの四女で料理家でもある福森道歩さんが、2015年に8代目を継いだ。地元伊賀の陶土を使い、ろくろで一つずつ手挽きする土鍋で知られる。
購入方法
- 伊賀焼伝統産業会館
- 伊賀焼の振興と後継者育成のための施設で、1階では地元の窯元が手がけた伝統的な作品から日常使いの器、現代的な作品までを展示・販売している。2階は伊賀焼の歴史や製造工程を学べる資料室。月曜・祝日は休館。購入先を見る →PR
- 伊賀焼陶器まつり
- 伊賀焼の窯元や作家の器が一堂にそろう販売イベント。2025年は9月19日から21日まで、伊賀市川合のすぱーく阿山で開かれた。開催時期や会場は年によって異なるため、伊賀焼伝統産業会館内の実行委員会で事前に確認したい。
体験施設
伊賀焼伝統産業会館 陶芸体験
三重県伊賀市丸柱169-2
地元の陶芸家の指導で作陶できる。手ひねり(粘土500g)1,650円、電動ろくろ(粘土1kg)3,960円、皿の絵付け1,650円など(焼成代・税込)。所要1〜2時間程度で要予約。作品は窯元で施釉・焼成され、後日発送される。
詳細を見る →よくある質問
Q. 「破袋(やぶれぶくろ)」とはどんな作品ですか?
A. 五島美術館が所蔵する重要文化財「古伊賀水指 銘 破袋」のことで、桃山時代の伊賀焼を代表する水指です。古田織部が書状で「今後これほどのものはないと思う」と記したと伝わります。伊賀藤堂家に伝来し、大きなゆがみや割れ、ビードロの景色に古伊賀の美意識がよく表れています。
Q. 伊賀焼の土鍋が料理に向くのはなぜですか?
A. 古琵琶湖層の土は、焼くと細かな気孔が多くでき、熱を蓄える力に優れているためです。火から下ろしても冷めにくく、じっくり火を通す料理に向きます。使い込むうちに細かなひびや貫入(表面の細かなひび模様)が入り、なじんで使いやすくなるともいわれます。