
鮒寿司は、琵琶湖の固有種であるニゴロブナを塩漬けにしたのち、飯(いい)と一緒に漬け込んで乳酸発酵させる、滋賀県を代表する熟れ鮓(なれずし)です。現在のにぎり寿司のように酢で酸味をつけるのではなく、米と魚を長期間発酵させることで自然に酸味が生まれるのが特徴で、寿司の原型を今に伝える食べ物ともいわれています。奈良時代の木簡や平安時代の『延喜式』にも近江国から「鮨鮒」が貢納された記録が残るほど古い歴史を持ちます。強い酸味と、チーズにも例えられる独特の発酵香が特徴で、好みが分かれる一方、上質なものは生臭さがなく芳醇な旨みを持つとされます。輪切りにしてそのまま食べるほか、お茶漬けや酒の肴としても親しまれ、正月や来客時などハレの日に供される滋賀を代表する伝統食です。
発祥
鮒寿司の起源は古く、奈良時代の長屋王家木簡や二条大路木簡に「鮒鮨」の語が確認されています。平安時代の法典『延喜式』には、近江国筑摩厨(現在の滋賀県米原市周辺)から朝廷へ「鮨鮒」が貢納されていたことが記されており、当時すでに米と塩を用いて作られていたことがわかります。魚を米飯とともに漬け込んで乳酸発酵させる熟れ鮓の製法は、現代の握り寿司の原型ともいわれ、鮒寿司はその古い形をほぼそのまま今に伝える食品とされています。
歴史
琵琶湖と、そこに流れ込む内湖・水田地帯という地理的条件のもと、産卵のために浅瀬へ集まるニゴロブナを容易に捕獲できたことから、鮒寿司は琵琶湖沿岸の暮らしに深く根付いていきました。四、五月ごろに獲れる子持ちのニゴロブナを塩漬けにし、土用のころに飯と交互に桶へ詰めて本漬けし、重石をして発酵させ、正月から食されるという手順は江戸時代以前から連綿と受け継がれてきました。現在も湖国の家庭や高島・大津などの専門店で、代々の製法が守られています。
特徴
最大の特徴は、酢を使わず乳酸発酵のみで酸味を生み出す点です。塩漬けと飯漬けを経て数か月から1年以上かけて発酵させるため、強い酸味と、熟成によって生じるアミノ酸由来の芳醇な香りを持ちます。漬け込みに使う魚は琵琶湖固有種のニゴロブナが最上とされ、卵を抱えたメスが特に珍重されます。発酵の度合いや漬け方によって味わいが異なり、酒粕漬けなど初心者向けに食べやすくアレンジした商品を扱う店もあります。
主な食材
食文化
琵琶湖漁業と稲作という湖国の暮らしが結びついて生まれた保存食で、正月や来客をもてなすハレの日の料理として大切にされてきました。手間と時間のかかる仕込みから、家々で受け継がれる味として今も親しまれています。
有名店
元祖阪本屋
滋賀県大津市中央1-2-20
明治2年創業。江戸期に膳所藩御用料亭であった本家阪本屋から暖簾分けし、150年余り鮒寿司の製造・販売を専門に続けている老舗。癖のない味わいが持ち味で、小サイズで3000円台から購入できる
詳細を見る →四〇〇年鮒寿し 総本家 喜多品老舗
滋賀県高島市勝野1387
元和5年(1619年)創業と伝わる高島の老舗。古代より近江高島に伝わる「紅葉鮒鮨」の伝統技法と「百匁百貫千日」という独自製法を、江戸初期から400年近く守り続けている
詳細を見る →鮒寿し 魚治
滋賀県高島市マキノ町海津2304
琵琶湖畔マキノに構える老舗で、料理宿「湖里庵」も併設する。伝統の本漬けのほか、まろやかで食べやすい酒粕漬けも扱い、初めての人や女性にも人気が高い
詳細を見る →よくある質問
Q. 鮒寿司はなぜ独特の匂いがするのですか
A. 酢を使わず、ニゴロブナと飯を乳酸発酵させて作るためです。魚のたんぱく質がアミノ酸に分解される過程で生じる香りで、上質なものはチーズに似た芳醇さがあるとされますが、発酵臭は強く好みが分かれます。
Q. 鮒寿司はどうやって食べるのがおすすめですか
A. 薄く輪切りにしてそのまま酒の肴として食べるほか、熱いお茶をかけてお茶漬け風にする食べ方も好まれます。独特の酸味と塩気がだしのように広がり、初心者にも食べやすいとされます。