
松本家具は、長野県松本市を中心に作られている和家具です。天正10年(1582年)に松本城を中心として城下町が形づくられた頃に、商工業のひとつとして始まったと考えられています。ケヤキやミズメ、ウダイカンバなどの無垢材を使い、箪笥や飾棚、座卓、文机などを作ってきました。複雑な木組みの技法による堅牢さと、木目を引き立てる拭き漆の仕上げが特徴です。太平洋戦争後には家具づくりが衰えましたが、民藝運動を率いた柳宗悦の訪問をきっかけに、池田三四郎が復興に取り組みました。和家具で培った技術は、椅子やテーブルなどの洋家具にも生かされています。1976年に国の伝統的工芸品に指定されました。松本の中町通りや松本民芸館で、その家具に触れることができます。
発祥
松本家具の起源は、天正10年(1582年)に松本城を中心として城下町が形成された頃と推定されています。家具づくりは松本藩の統制のもと、城下町の商工業のひとつとして発展しました。元禄10年(1697年)に藩が職人を調べた記録には、指物屋16人、大工46人、塗師屋8人などの名があり、すでに産地が形成されていたことがわかります。
歴史
江戸末期の代表的な品は、松本独特の型をした帳箪笥(ちょうだんす)です。明治後期に鉄道が発達すると、各地へ出荷されるようになりました。松本の指物の製造戸数は、大正4年に53戸、昭和13年には329戸に達しています。戦後に衰えた家具づくりは、池田三四郎が民藝運動の一環として復興させました。1976年2月26日、国の伝統的工芸品に指定されています。
特徴
松本家具は、表から見えない部分まで手を抜かずに作られた、きわめて堅牢な家具です。代表的な組接ぎ(くみつぎ)の技法「鯱留(しゃちどめ)」は、木片を打ち込んで部材をつなぎ、木の伸び縮みにも耐えます。仕上げの拭き漆は、生漆を塗っては拭き取る作業を十数回重ねるもので、木目の美しさと木の温かみを伝えます。
技法
鯱留(しゃちどめ)
正式には「違胴付留ホゾ差鯱栓接(ちがいどうつきとめほぞさししゃちせんつぎ)」と呼ばれる組接ぎの技法です。組み立ての際に「鯱栓」という木片を打ち込み、二つの部材をしっかりとつなぎます。
蟻桟(ありざん)
天板の反りを防ぐために用いる技法です。ほぞの幅を微妙に変えて加工することで、接着剤などを使わずに木と木を接合します。
拭き漆
生漆と松煙を混ぜたものを塗っては拭き取る塗装です。十数回重ねることで重厚さと美しさが生まれ、使い込むほどに味わいが深まります。茶布台の天板に和紙などを張る一閑張(いっかんばり)漆塗や、柿渋の油拭き塗もあります。
使用される素材
制作工程
- 1
天然乾燥・人工乾燥
材木を桟積みして自然に乾かし、さらに乾燥機で仕上げる。
- 2
木取加工
図案に合わせて、各部材を木取りする。
- 3
木地加工・轆轤挽き
伝統の組接技法で継手や組手を造り、引き手などをろくろで削る。
- 4
組立加工
部材を組み立ての順に本組みする。
- 5
塗装
拭き漆や柿渋の油拭きなどで仕上げる。
- 6
仕上加工
地金をたがねで切って造った錺金具(かざりかなぐ)を取り付ける。
| 主な産地 |
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職人・工房
池田三四郎
1909年松本市生まれ。1948年に柳宗悦に師事して民藝運動に参加し、戦後に衰えた松本家具の復興に取り組んだ。地元の指物の技術に西洋や李朝の家具の技法を取り入れ、松本民芸家具の礎を築いた。1999年没。
松本民芸家具
池田三四郎が民藝運動の中で育てた家具づくりを受け継ぐ松本の家具メーカー。和家具の技術を生かした和風の洋家具を、主にミズメザクラやケヤキで作る。バーナード・リーチによる椅子の製作指導も受けた。
松本家具工芸協同組合
松本市中央に事務所を置く松本家具の産地組合。松本市・塩尻市・安曇野市・木祖村にわたる産地で、伝統の組接技法を受け継ぐ家具づくりを支えている。
購入方法
- 中央民芸ショールーム
- 松本市中央の中町通りにある松本民芸家具のショールーム。椅子やテーブルなど400点ほどの家具を常時展示し、実際に座って確かめられる。器や布類などの手仕事の品も販売している。
体験施設
松本民芸館
長野県松本市里山辺1313-1
民芸運動に共鳴した丸山太郎が1962年に創設し、のちに市の施設となった。松本箪笥をはじめ、国内外の民芸品を展示する。入館料は500円程度で、小・中学生は無料。月曜休館。
よくある質問
Q. 松本家具と松本民芸家具は同じものですか?
A. 松本家具は、城下町松本で受け継がれてきた和家具の総称で、国の伝統的工芸品の名称です。松本民芸家具は、戦後に池田三四郎が松本家具の技術をもとに民藝運動の中で育てた家具で、和家具と洋家具を融合させた点に特色があります。
Q. 帳箪笥(ちょうだんす)とはどんな家具ですか?
A. 江戸末期の松本家具を代表する箪笥で、松本独特の型をしています。取り付ける鉄の金具は、錺職(かざりしょく)や錠前屋が手がけました。明治初期には松本の旧東町や泉町に、こうした職人の店が60軒ほど並んでいたといわれます。
Q. 木材はどのように乾燥させるのですか?
A. 材木を桟積みにして、半年から1年ほどかけて天然乾燥させます。途中で積み替えをして乾き具合をそろえ、最後に人工乾燥機で仕上げます。現在の生活様式の中でも安心して使える家具にするための工程です。