甲州大石紬

Koshu Oishi Tsumugi

甲州大石紬 1

甲州大石紬は、山梨県富士河口湖町の大石地区で織られてきた手織りの絹織物で、県の指定名称は「甲州大石紬織物」です。河口湖の北岸にあたるこの地域では、養蚕から糸づくり、機織りまでを手作業で一貫して行ってきました。経糸(たていと)には一匹の蚕が作る本繭の糸、緯糸(よこいと)には二匹の蚕が一緒に作る玉繭の糸を使います。糸は、座繰り(ざぐり)という道具で繭から手で引き出します。丈夫で軽く柔らかく、絹特有の滑らかさを備えた風合いが特徴です。郡内地域の織物については、915年に絹を朝廷へ献上したという記述が残ります。江戸時代末期には、富士講の人々や行商人の手で広く売り出されました。1994年に山梨県郷土伝統工芸品に指定されています。大石紬伝統工芸館では、機織りの見学や手織りの体験ができます。

発祥

河口湖の周辺では、1000年以上前から織物が織られてきたといわれます。その起源には諸説あります。孝謙天皇の時代に国司の山口沙弥麿が養蚕と織物を伝えたという説のほか、百済から渡来した秦氏の一族が富士山麓に移り住み、織物が発展したという説もあります。郡内地域の織物についての最も古い記述は、915年に「絹を朝廷に献上した」というものです。

歴史

江戸時代の1681年には、減租を願う訴状に「つむぎ」の記載があり、黄紬(きつむぎ)が織られていたことがわかります。江戸時代末期には租税として物納されたほか、富士山を信仰する富士講の人々や行商人によって広く売り出されました。全盛期には250戸余りの農家が紬を織り、年間3400反余りを生産しています。明治・大正期の改良を経て、今の大石紬になりました。

特徴

大石紬は丈夫で軽く、柔らかい風合いをもちます。絹特有のすべりの良さがありながら堅牢で、ほかの紬とは異なる手触りです。糸を引く座繰りの道具は右手で車を回す形で、全国的にも珍しい大石地区独特のものです。全19工程のうち撚糸を除くほぼすべてを手作業で行い、熟練の職人でも一反を織り上げるのに2週間ほどかかります。

技法

座繰り(ざぐり)

煮た繭から糸を引き出し、巻き取っていく手作業の糸づくりです。大石地区の座繰り機は右手で車を回す形で、全国的にも珍しいとされます。経糸には本繭、緯糸には玉繭から引いた糸を使い分けます。

投げ杼(なげひ)による手織り

機織りでは、緯糸を収めた杼(ひ)を手で経糸の間に投げ入れ、筬(おさ)を打ち付けて織り込みます。この動作を一段ずつ繰り返して、布を織り上げていきます。

使用される素材

本繭(一匹の蚕が作る繭)玉繭(二匹の蚕が一緒に作る繭)

制作工程

  1. 1

    養蚕・選繭

    蚕を育てて繭を作らせ、糸に向く繭を選ぶ。

  2. 2

    煮繭・座繰り

    繭を煮て、座繰りで糸を引き出す。

  3. 3

    合糸・撚糸

    引いた糸を合わせ、撚りをかける。

  4. 4

    精練・染色

    糸を精練し、色に染める。

  5. 5

    整経・機上げ

    経糸をそろえて綜絖(そうこう)や筬に通し、機に掛ける。

  6. 6

    製織・仕上げ

    投げ杼で緯糸を入れて筬で打ち込み、織り上げた布を仕上げる。

主な産地
  • 南都留郡富士河口湖町(大石地区)

職人・工房

梶原道子

12歳から本格的に機を織り始め、70年以上にわたって大石紬を織ってきた職人。手織組合に属して長く現役を続け、職人を離れた後は、座繰りや機織りの技を若い世代へ伝える活動に携わっている。

栗林茜

2018年に地域おこし協力隊として富士河口湖町に移住し、梶原道子さんから養蚕や糸づくり、織りまでを学んだ。大石紬手織組合の研究生として製織を続け、大石紬伝統工芸館のワークショップで講師も務めている。

購入方法

大石紬伝統工芸館
富士河口湖町大石にある大石紬の施設で、館内でシルクを使ったさまざまな商品を販売している。入館は無料で、開館は9時から17時。近くには富士大石ハナテラスがある。

体験施設

大石紬伝統工芸館

山梨県南都留郡富士河口湖町大石1438-1

1989年に開設された施設で、機織りの実演を見学できる。機でテーブルセンター1枚を織る手織り体験は7,000円程度で、所要約90分、要予約。草木染めなどの体験や、季節ごとのワークショップも行っている。

よくある質問

Q. 本繭と玉繭はどう違うのですか?

A. 本繭は一匹の蚕が作る普通の繭で、大石紬では経糸に使います。玉繭は二匹の蚕が一緒に作った、形の変わった繭です。大石紬では、この玉繭から座繰りで引いた糸を緯糸に用います。

Q. 大石紬は今も織られていますか?

A. 戦後に養蚕が衰え、伝統の道具や技術で紬を作れる人はほとんどいなくなりました。それでも大石紬手織組合の職人や研究生が技を受け継いでいます。2018年には地域おこし協力隊として移住した若い世代も加わり、製織が続けられています。

Q. 大石紬の糸はどのように使い分けられていますか?

A. 経糸には本繭から引いた糸を、緯糸には玉繭から座繰りで引いた糸を使います。緯糸には、着物に使われる玉糸や、帯に使われる太めの座繰り糸があります。用途に合わせて糸を選ぶことで、それぞれの風合いを生み出しています。

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