石見焼(いわみやき)は、島根県江津市を中心とする石見地方で焼かれてきた陶器の総称です。18世紀中頃に本格的な製陶が始まり、周防(山口県)や備前(岡山県)の陶工から技術を取り入れて発展しました。地元の都野津層の粘土を使い、1250〜1300度ほどの高温で焼くため、素地は硬く水を吸いにくくなります。塩分や酸に強いことから、水がめや、漬物・梅干しを貯える甕として全国で重宝されました。代表的な製品は「はんど(はんどう)」と呼ばれる大型の水がめで、江戸時代末期には北前船で各地へ運ばれています。明治時代に最盛期を迎え、窯元は100軒を超えたといわれます。上水道の整備やプラスチック容器の普及で衰えましたが、現在はすり鉢や傘立て、食器なども作られています。1994年(平成6年)に経済産業大臣指定伝統的工芸品(国の伝統的工芸品)に指定されました。
発祥
石見地方の焼き物の始まりについては、文禄・慶長の役の際に連れ帰られた朝鮮の陶工・李郎子に由来するという伝承があります。江津での本格的な製陶は、18世紀中頃に始まったとされます。片口や徳利などの小物の技術は周防国岩国藩から招かれた陶工・入江六郎から、水がめなどの大物の技法は天明年間(1780年代)に備前国の陶工から伝わったといわれます。伝来の年は、1763年頃とする資料と1765年とする資料があります。
歴史
江戸時代末期には、はんどが北前船で全国に出荷され、「石見のはんど」として親しまれました。明治時代になると水がめは各家庭の必需品となり、石見焼は最盛期を迎えます。耐水性に優れた大甕は全国から求められ、窯元は100軒を優に超えたといわれます。昭和30年代以降は上水道の整備や合成樹脂の容器の普及で需要が落ち込み、窯元は激減しました。その後は漬物や味噌を貯える小ぶりの甕や民芸陶器に活路を見いだし、1994年に国の伝統的工芸品に指定されています。
特徴
石見焼の陶土は緻密で耐酸性のある硬質の土で、高温での焼成に耐えます。焼き上がった器は堅牢で、酸・塩・水に強いのが特徴です。釉薬には、出雲地方で採れる来待石(きまちいし)から作る来待釉と、温泉津石などの天然の原料が使われます。来待釉は深みのある茶褐色に、アルカリを含む温泉津石は半透明の青みを帯びた色に仕上がります。大はんどうのほか、傘立てや睡蓮鉢、庭園用のテーブルセットなどの大型陶器も作られています。
技法
しの作り
大はんどうなどの大型陶器を形づくる、石見焼の伝統技法である。太い紐状の粘土をろくろの上で円を描くように積み、ろくろを回してならす。半乾きになったら次の粘土を積む作業を繰り返す。粘土の縮みを見込んで継ぎ目なく仕上げるには、熟練の技が要る。
来待釉
出雲地方で採れる来待石を原料とする釉薬である。焼き上がると深みのある茶褐色になり、石見焼を代表する色となっている。同じ土と釉薬は石州瓦にも使われ、かつては石見焼と石州瓦が同じ登り窯で焼かれることも多かった。
使用される素材
制作工程
- 1
原土の採掘・精製・混練
地元の粘土を掘り出し、不純物を除いてよく練る。
- 2
成形
ろくろで形をつくる。大物はしの作りで、紐状の粘土を積み上げて成形する。
- 3
仕上げ
形を整え、細部を仕上げる。
- 4
施釉
来待釉などの釉薬を掛ける。
- 5
乾燥
十分に乾かして焼成に備える。
- 6
焼成
1250〜1300度ほどの高温で焼き上げる。今も登り窯で焼く窯元がある。
| 主な産地 |
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|---|
職人・工房
石州嶋田窯
江津市後地町の窯元で、1935年(昭和10年)に開窯した。しまね観光ナビは、伝統技法のしの作りで製品を作り、石見焼の窯元で唯一今も登り窯を使っていると紹介している。毎年5月には登り窯祭りが開かれ、窯出しを見ることができる。
公式サイト →石州宮内窯
江津市二宮町の窯元。嶋田窯で育ち、いくつかの窯場で経験を積んだ初代の宮内謙一が1970年に開いた。1985年から長男の宮内孝史が家業に加わり、二代目として窯を継ぐ。大物づくりで培った技術を生かし、ふた壺や睡蓮鉢、傘立てなどを作る。
公式サイト →元重製陶所
江津市嘉久志町のすり鉢専門メーカー。1925年(大正14年)に石見焼の窯元として創業し、1987年にすり鉢の専業に切り替えた。成形や施釉を機械化する一方、溝を刻む「目かき」は手作業にこだわる。県の広報誌では年間約25万個を生産すると紹介された。
公式サイト →雪舟窯
浜田市旭町丸原の窯元。水墨画で知られる雪舟に深く傾倒し、その精神を陶芸に表すことを掲げる。焼き締めのビアカップやマグカップ、コーヒー碗皿、飯碗などを作り、公式サイトで陶芸体験も案内している。
公式サイト →購入方法
- 石州宮内窯のオンラインストア
- 宮内窯は公式サイトのオンラインストアで、ふた壺や睡蓮鉢、傘立て、マグカップなどを扱っている。品切れの品もあるため、在庫や注文については窯元に確認するとよい。購入先を見る →PR
- 元重製陶所のすり鉢
- 元重製陶所のすり鉢は、全国の大手ホームセンターで過半のシェアを占めると島根県の広報誌で紹介されている。公式サイトには、すり鉢や大粒セラミックおろし皿の商品一覧が掲載されている。購入先を見る →PR
- 石見陶器工業協同組合
- 江津市後地町1315にある石見焼の産地組合(電話0855-57-0155)。島根県の伝統工芸の紹介ページで製造事業者として案内されており、窯元や製品について尋ねる窓口になる。購入先を見る →PR
体験施設
石州宮内窯 陶芸体験
島根県江津市二宮町神主2211-3
伝統工芸士の指導で、手びねりと電動ろくろを体験できます。料金は1人2,200円(税込)で、電話での予約が必要です。湯呑みや茶碗などを作り、乾燥と焼成を経て約1か月〜1か月半後に、郵送か窯元での受け取りとなります。
詳細を見る →よくある質問
Q. 「はんど」とは何ですか?
A. 石見焼を代表する大型の水がめのことで、「はんどう」とも呼ばれ、「飯銅」と書く例もあります。水道が普及する前は生活用水をためる道具として各家庭で使われ、明治時代に盛んに量産されました。北前船で全国に運ばれ、「石見のはんど」として知られました。
Q. 来待釉の来待石は、出雲石灯ろうの石と同じですか?
A. 同じ来待石です。来待石は松江市宍道町の来待地区周辺で採れる砂岩で、出雲石灯ろうの材料として知られます。石見焼ではこの石から作る来待釉が使われ、深みのある茶褐色に焼き上がります。