
伊勢形紙(いせかたがみ)は、着物の生地に柄や文様を染めるための型紙で、三重県鈴鹿市の白子・寺家・江島地区を中心に作られています。「伊勢型紙」とも書きます。美濃和紙を柿渋で貼り合わせた「型地紙(かたじがみ)」に、細かな刃先の彫刻刀で文様を彫り抜いて作ります。友禅や小紋、浴衣などの染めに使われ、小紋ではそのほとんどが伊勢の型紙で染められるといわれます。起源には諸説ありますが、室町時代末期には型紙が使われていたと考えられています。江戸時代には紀州藩の保護を受け、型売り商人が全国を行商して名を広めました。彫刻には錐彫・突彫・道具彫・縞彫の4つの技法があります。1955年に技術が国の重要無形文化財に指定され、1983年には「伊勢形紙」の名で国の伝統的工芸品に指定されました。近年は照明や額装品、建具など、インテリアへの活用も広がっています。
発祥
型紙のおこりには、いくつもの伝説があり、特定されていません。奈良時代に孫七という人が始めた、子安観音寺の僧が虫食いの葉を見て思いついた、といった話です。応仁の乱の際に京都から逃れた職人が技術を伝えたともいわれます。白子にはもともと和紙も型染もなかったため、京都や紀州など他の地域とのつながりから考える説が多いとされます。職人尽絵に型紙を使う染め職人が描かれていることから、室町時代末期には存在したと考えられています。
歴史
元和5年(1619年)、白子・寺家村は紀州藩初代藩主・徳川頼宣の所領となり、型紙は藩の保護を受けます。型売り商人は「御絵符(おえふ)」などの特権を得て全国を行商し、宝暦3年(1753年)には138人が株仲間として公認されました。武士の裃に使う小紋は次第に細かくなり、彫りの技も磨かれます。明治に株仲間は解散しましたが、型地紙を燻す「室枯らし」が考案されるなど改良が続きました。戦後は昭和40年代に生産のピークを迎えています。
特徴
伊勢形紙は、生地に防染糊を置くための型です。彫り抜いた部分に糊がのり、染め上がるとその部分が白く文様として残ります。型地紙は、美濃和紙3枚を紙の目が縦・横・縦になるよう柿渋で貼り合わせて作ります。天日で乾かし、室で約1週間燻した後、再び柿渋に浸して仕上げます。こうして伸び縮みしにくい丈夫な紙になり、完成までに約45日かかるとされます。
技法
錐彫(きりぼり)
刃先が半円形の錐を型地紙に垂直に立て、回転させて小さな穴を彫る技法。鮫・行儀・通し・霰(あられ)などの小紋に用い、1cm四方に100個ほどの穴を彫ったものもある。
突彫(つきぼり)
型地紙を5〜8枚重ねて穴の開いた板に置き、刃先1〜2mmの小刀を垂直に突くように前へ彫り進める。線にわずかな揺れが生まれ、文様に独特の温かみが出るとされる。
道具彫(どうぐぼり)
花・扇・菱などの形に作った彫刻刀で文様を彫り抜く技法。刃物づくりから始まり、道具の出来が仕上がりを左右する。均一な文様を表せるのが特長で、江戸小紋に多く用いられる。
縞彫(しまぼり)
定規を当てて小刀を手前に引き、均一な縞を彫る技法で、引彫とも呼ぶ。1本の縞に同じ所を3回なぞり、1cm幅に11本もの縞を彫ることもある。
糸入れ・紗張り
縞のように切れやすい型を補強する技法。かつては2枚の型の間に糸を挟む糸入れが行われた。1921年に紗(目の粗い絹布)を張る紗張りが考案され、糸入れに代わって広まった。
使用される素材
制作工程
- 1
法造り(ほうづくり)
美濃和紙を200〜500枚ほど重ね、型紙の規格の寸法に裁断する。
- 2
紙付け
3枚の和紙を、紙の目が縦・横・縦になるよう柿渋で貼り合わせる。
- 3
乾燥・室枯らし
晴れた日に張り広げて天日で乾かし、室に入れて約1週間燻す。再び柿渋に浸して乾燥・燻煙を繰り返し、検品を経て型地紙が完成する。
- 4
彫刻
図案に合わせ、錐彫・突彫・道具彫・縞彫の技法を使い分けて文様を彫り抜く。
- 5
補強
必要に応じて紗張りや糸入れを施して型を補強する。
| 主な産地 |
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職人・工房
購入方法
- 鈴鹿市伝統産業会館 ギャラリー
- しおりやミニ染型などの小物から、はがき・色紙サイズ、本格的な大判の染型額まで扱っている。伝統工芸士が彫刻した額装の型紙や、LED型紙あかりの体験キットもそろう。購入先を見る →PR
- 伊勢形紙協同組合のオンラインショップ
- 組合はポーチ染めやLED型紙あかり、ミニ色紙など、自宅で彫りや染めを楽しめる体験キットをオンラインで販売している。作り方を紹介する動画も公開している。購入先を見る →PR
体験施設
鈴鹿市伝統産業会館
三重県鈴鹿市寺家3-10-1
彫刻体験は、しおり200円(15〜30分)、はがき300円、ミニ色紙450円、色紙850円。10名未満なら予約不要で、12〜13時は受付を休む。ハンカチ1,500円程度からの染め体験は要予約。伊勢型紙の実演は毎週日曜日に行われる。
詳細を見る →伊勢型紙資料館
三重県鈴鹿市白子本町21-30
白子屈指の型紙問屋だった寺尾斎兵衛家の江戸時代末期の住宅を修復し、1997年(平成9年)に開館した。型紙資料を収蔵・展示する。入館無料で10〜16時、月・火曜と第3水曜は休館。近鉄白子駅から徒歩5分。
よくある質問
Q. 「伊勢形紙」と「伊勢型紙」はどちらが正しい表記ですか?
A. どちらも使われています。歴史的には「形」の字が使われ、戦後は「型」に統一されていきました。1955年の重要無形文化財は「伊勢型紙」、1983年の伝統的工芸品は「伊勢形紙」の名で指定されたため、今も両方が併用されています。業界では「型」の字に統一しようという動きがあります。
Q. 型紙はどのように染めに使われるのですか?
A. 型紙を生地に置き、彫り抜いた部分から防染糊を置いていきます。染めた後に糊を落とすと、その部分が白く残って文様になります。小紋の場合、1反(約13m)を染めるのに型紙を60回ほど送ってつなぐため、つなぎ目を正確に彫ることが重要です。