
越前和紙は、福井県越前市の今立地区で漉かれてきた手漉き和紙です。産地は大滝・岩本・不老・新在家・定友の5つの集落からなり、「五箇(ごか)」と呼ばれます。およそ1500年前、岡太川の上流に現れた女神「川上御前」が村人に紙漉きを教えたという伝説が残り、女神は紙祖神として岡太神社に祀られています。奈良時代には写経用紙として使われ、やがて武家に重んじられた高級紙「越前奉書」を生みました。江戸時代の福井藩札や明治新政府の太政官札の用紙も、この地で漉かれています。原料は楮・三椏・雁皮で、奉書紙や鳥の子紙、襖紙など、用途に応じた多彩な紙を作り分けます。1976年に国の伝統的工芸品に指定されました。越前和紙の里では、紙漉きの見学や体験ができます。
発祥
越前和紙の始まりには、紙祖神「川上御前(かわかみごぜん)」の伝説が伝わります。継体天皇がまだ男大迹王(おおどのおう)として越前にいた頃、岡太川の上流に美しい女性が現れました。女性は「田畑は少ないが清らかな水に恵まれているので、紙を漉けばよい」と語り、紙漉きの技を村人に教えたといいます。村人はこの女神を川上御前とあがめ、岡太神社を建てて祀りました。
歴史
越前では5世紀末頃には紙が漉かれ、当初は写経用紙が中心だったと考えられています。奈良時代の正倉院文書にも、越前の紙の記録が残ります。武家が紙を大量に使うようになると技術が高まり、「越前奉書」は幕府や領主の保護を受けました。日本最古の藩札とされる福井藩札や、明治新政府の太政官金札の用紙も五箇の地で漉かれています。1976年に国の伝統的工芸品に指定されました。
特徴
越前和紙は、自然な生成り色と温かみのある肌合い、そして丈夫さを備えています。楮は繊維が太く長いため強い紙に、三椏は表面が滑らかで光沢のある紙になります。雁皮は虫害に強く、保存性が求められる用途に向きます。奉書紙や鳥の子紙、襖紙など紙の種類が幅広く、品質・種類・量ともに日本有数の産地です。越前奉書と越前鳥の子紙は、国の重要無形文化財に指定されています。
技法
流し漉き
簀桁(すげた)で紙料液を汲み込み、前後左右に揺らしながら余分な液を流して繊維を絡ませる漉き方です。何度も汲み込みを繰り返して層を重ねるため、薄くても丈夫な紙に仕上がります。
溜め漉き
簀桁に汲んだ紙料液を大きく揺らさず、そのまま水を落として紙の層を作る漉き方です。越前では流し漉きと溜め漉きの両方の技法が伝わり、紙の種類や用途に応じて作り分けられています。
使用される素材
制作工程
- 1
煮熟(しゃじゅく)
原料となる木の皮を釜で煮て、繊維を柔らかくする。
- 2
塵取り・精洗
水にさらしながら、塵や傷を手作業で丁寧に取り除く。
- 3
叩解(こうかい)
繊維を叩いてほぐし、紙料としてなじみやすくする。
- 4
抄造(紙漉き)
紙料を簀桁で汲み、流し漉きや溜め漉きで漉き上げる。
- 5
圧搾
重ねた湿紙に圧をかけて、水分を絞り出す。
- 6
へぎわけ・乾燥
湿紙を1枚ずつはがして乾かし、艶を出して仕上げる。
| 主な産地 |
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職人・工房
九代 岩野市兵衛
越前市で越前奉書を漉く岩野家の九代目。国の重要無形文化財「越前奉書」の保持者(人間国宝)として、楮を原料にした伝統的な奉書紙づくりを受け継いでいる。
長田製紙所
明治42年(1909年)創業の、越前市大滝町にある手漉き和紙の工房。手漉きの襖紙を長く手がけてきた。併設のショップで和紙小物や和紙素材を販売し、ギャラリーでは独自技術を生かした和紙のインテリアやアートを展示している。
購入方法
- 和紙処えちぜん
- パピルス館内にある越前和紙のショップ。便箋や封筒、扇子、うちわなど、越前和紙を使った製品を扱う。営業は16時30分までで、毎週火曜と年末年始は休み。購入先を見る →PR
- 長田製紙所
- 越前市大滝町の工房に併設されたショップ。手漉き和紙の小物や和紙素材を販売しており、手漉き襖紙を使った和封筒は550円程度から購入できる。
体験施設
よくある質問
Q. 川上御前とはどんな神様ですか?
A. 五箇の里に紙漉きを伝えたとされる女神で、紙祖神として全国の紙業界からあがめられています。岡太神社・大瀧神社に祀られ、江戸時代後期に再建された里宮の社殿は国の重要文化財です。毎年5月3日〜5日には春祭り「神と紙の祭り」が行われます。
Q. 越前鳥の子紙とはどんな紙ですか?
A. 雁皮を原料とする手漉き和紙で、奈良時代から漉かれてきたとされます。淡い卵の殻のような色合いと、なめらかな質感が特徴です。2025年12月には、ユネスコ無形文化遺産「和紙:日本の手漉和紙技術」に追加登録されました。