
ふく刺し(ふくさし)は、とらふぐの身を透けるほど薄く引いて大皿に盛り付ける、山口県下関市を代表する料理です。下関ではふぐを濁らずに「ふく」と呼び、その刺身を「ふく刺し」といいます。「ふく」は「福」に通じるため縁起がよいともいわれます。山口県の県魚はふぐで、下関はふぐ料理の歴史が長く、加工場や料理店が多いことから「ふくの本場」として知られます。1888年(明治21年)には、伊藤博文の働きかけで山口県がふぐ食を解禁し、下関の料亭「春帆楼(しゅんぱんろう)」がふぐ料理公許第一号の店となりました。薄く引いた身を花びらのように円く並べる「菊盛り」は、料理人の技の見せどころです。ポン酢にもみじおろしやねぎを添えて食べます。値段が高いため、祝いの席などで出される特別なごちそうとされます。天然とらふぐの漁期は9月から3月ごろに限られ、冬の味覚として親しまれています。
発祥
下関の近海にはとらふぐの産卵場があり、日本海と瀬戸内海をつなぐ関門海峡はとらふぐの通り道でもあります。こうした環境から、下関は古くからふぐ食文化が発達した地とされます。一方で、ふぐは中毒の危険から長く禁じられてきました。豊臣秀吉の朝鮮出兵の際、九州に集まった兵士の間でふぐによる中毒死が相次ぎ、ふぐ食が禁じられたと伝えられています。
歴史
ふぐを食べることを禁じる決まりは明治時代にも続いていました。春帆楼の年表によると、1887年(明治20年)の暮れ、海が荒れて魚がとれなかったため、女将のみちが禁制のふぐを伊藤博文の膳に出しました。その味を気に入った伊藤は、翌1888年に山口県令(今の知事)に禁を解かせ、春帆楼はふぐ料理公許第一号となりました。1974年(昭和49年)には、ふぐ専門の南風泊(はえどまり)市場が彦島に開設されました。
特徴
ふぐの身は繊維質で弾力が強いため、専用の「ふぐ引き包丁」で透けるほど薄く引く「薄造り」にします。三枚におろした身から血合いと薄皮を取り除き、斜めにそぐように切って皿に並べます。盛り付けは、大輪の菊の花に見立てた「菊盛り」がよく知られます。湯引きした皮を添えることもあります。だいだいなどのかんきつ果汁としょうゆを合わせたポン酢に、もみじおろしと細ねぎを添えて食べます。
主な食材
食文化
下関では、菊盛りにしたふく刺しが鮮魚店やスーパーでも売られ、家庭でも食べられています。毎年4月29日には、ふぐの霊を慰める「下関ふく供養祭」が開かれます。2016年には、下関で処理されたとらふぐが「下関ふく」として地理的表示(GI)に登録されました。
家庭料理との違い
ふぐには有毒な部位があるため、さばけるのはふぐ処理師の免許を持つ人に限られます。料理店では職人が身を薄く引き、その場で菊盛りに仕上げます。家庭では自分でさばかず、鮮魚店やスーパーで盛り付け済みのふく刺しを買って楽しみます。
有名店
春帆楼 下関本店
山口県下関市阿弥陀寺町4-2
伊藤博文ゆかりの、ふぐ料理公許第一号の料亭です。1895年(明治28年)には日清講和条約(下関条約)の締結の場にもなりました。公式サイトでは、とらふぐの刺身を含む「ふぐ会席」が税込8,800円から、フルコースが税込24,200円からと案内されています(サービス料別)。
詳細を見る →下関ふく百花 関とら本店
山口県下関市みもすそ川町6-20
唐戸市場から車で4分ほどのふく料理店です。職人が一枚ずつ丁寧に引いたふく刺しを、大輪の菊に見立てて盛り付けるのが看板です。予約サイトでは、1人1万2,000円程度からのコースが紹介されています。同店のとらふく刺身のセットは、百貨店の通販でも扱われています。
唐戸市場
山口県下関市唐戸町5-50
関門海峡に面した市場で、鮮魚コーナーや食堂でふぐを扱っています。金・土・日曜と祝日には1階で「活きいき馬関街」が開かれ、ふぐの握りなどを1貫から買って食べ比べられます。市場内の店では、ふく汁が400円程度から味わえるとも紹介されています。
| とらふく焼きひれ(春帆楼) | 春帆楼下関本店の売店で扱う、とらふぐのひれを焼いた商品である。ふぐのひれを干して炙り、熱燗に入れたものは「ひれ酒」と呼ばれ、香ばしい風味が楽しめる。公式サイトでは756円(税込)とされている。購入先を見る →PR |
|---|---|
| 春帆楼 だいだいぽん酢 | 春帆楼下関本店の売店で扱うポン酢である。ふく刺しは、かんきつ果汁としょうゆを合わせたポン酢で食べるのが定番で、だいだいはその代表的な果実である。公式サイトでは1,026円(税込)とされている。購入先を見る →PR |
よくある質問
Q. なぜ下関ではふぐを「ふく」と呼ぶのですか?
A. 濁る「ふぐ」は「不遇」に通じ、「ふく」は「福」につながるため縁起がよい、という説がよく知られています。春帆楼は、怒ると腹をふくらませる様子や、水を「吹く」習性からついた古い呼び名だとする説も紹介しています。どの説が正しいかは、はっきりしていません。
Q. ふぐを家庭でさばいてもよいですか?
A. 避けてください。ふぐは肝臓や卵巣などに毒をもち、調理できるのはふぐ処理の免許を持つ人に限られます。山口県では、ふぐ処理の実務を3年以上経験したうえで試験に合格する必要があります。免許の名称や条件は都道府県ごとに異なり、国家資格ではありません。