鈴鹿墨(すずかすみ)は、三重県鈴鹿市で作られている書道用の固形墨です。煤(すす)を膠(にかわ:動物の皮や骨から作る接着剤)で練り固め、木型に入れて成形し、長い時間をかけて乾かして仕上げます。起源は延暦年間(782〜806年)とも伝わり、鈴鹿の山の松を燃やして煤を採ったのが始まりとされます。江戸時代には紀州藩の保護を受け、大名の家紋書きや寺子屋の広がりとともに需要が増えました。発色がよく、上品で深みがあり、線の芯とにじみがよく調和する墨として、多くの書家に愛用されています。1980年(昭和55年)、墨として初めて国の伝統的工芸品に指定されました。現在、鈴鹿墨を作るのは鈴鹿市寺家の進誠堂のみとされます。伝統工芸士の伊藤亀堂さんと、息子の伊藤晴信さんが技を受け継いでいます。
発祥
鈴鹿墨の発祥は延暦年間ともいわれます。鈴鹿の山々に産した肥松(こえまつ:脂を多く含む松)を焚いて煤を採り、これを原料に墨を作っていたと伝えられます。鈴鹿は製墨に必要な原材料が手に入りやすい土地でした。さらに弱アルカリ性の水質が、膠の固まる力や粘りを墨づくりに最適な状態にするとされ、地理や気候風土の条件に恵まれていました。
歴史
江戸時代、裃(かみしも)の流行とともに諸大名の家紋が定められ、家紋を書くための上質な筆墨が求められました。寺子屋の広がりも重なり、墨の需要は急増します。鈴鹿の地が紀州藩領となると、紀州候の保護と厚遇を受けて発展しました。鈴鹿墨はもともと染め用や紋書き用の精度の高い墨として作られ、のちに書道用の銘墨も多く生み出しました。1980年10月16日に墨として初の伝統的工芸品に指定されています。
特徴
鈴鹿墨の持ち味は発色のよさです。上品で深みがあり、線の芯(基線)とにじみが見事に調和するとされます。現在の製品は植物性の油煙を主な原料とし、硯ですったときの墨のおり方がとても滑らかです。粒子が細かく、紙や絹への定着がよいことから、紋書きにも力を発揮するとされます。進誠堂は8色の色墨や白い墨など新しい墨の開発にも取り組み、墨染めの小物なども手がけています。
技法
揉み上げ(もみあげ)
煤と膠を合わせた墨の塊「墨玉」を、手で繰り返し揉んで練り上げる工程。煤と膠をむらなく混ぜ合わせ、余分な空気を抜くことで、すったときの滑らかさにつながる。
型入れ成形
練り上げた墨を大きさに応じて量り、木型に入れて圧力をかけて形を整える。成形の方法には型入れのほか、糸瓜巻き(へちままき)、へら押し、手で握って形づくる手握りがある。
灰替え乾燥
型から出した墨を灰の中に埋め、灰を取り替えながら水分を少しずつ抜く乾燥法。5〜30日ほど続けた後、墨を編んで吊るし、2〜6か月かけて自然乾燥させる。
使用される素材
制作工程
- 1
膠溶解
膠を湯煎で溶かし、水飴のような状態にする。
- 2
揉み上げ
溶かした膠と煤を合わせ、手作業で揉んで練り上げる。むらなく混ぜ、空気を抜いた墨玉にする。
- 3
型入れ
墨玉を量って木型に入れ、ジャッキで圧力を加えて成形する。
- 4
灰替え乾燥
型から出した墨を灰に埋め、灰を替えながら5〜30日ほどかけて水分を抜く。
- 5
編み干し乾燥
灰から出した墨を編んで吊るし、2〜6か月ほどかけてゆっくり自然乾燥させる。
- 6
仕上げ
表面を洗って貝殻で磨き、装飾を施す。さらに寝かせて製品に仕上げる。
| 主な産地 |
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職人・工房
購入方法
- 進誠堂(直売)
- 寺家の店舗で墨を販売し、実演も行っている。定価は小ぶりな「遊」の1,320円程度から、5万円を超える高級品まで幅広い。営業は平日9時から16時30分までで、土日祝日は休み。近鉄鼓ヶ浦駅から徒歩5分。購入先を見る →PR
- 鈴鹿市伝統産業会館
- 鈴鹿墨と伊勢型紙を紹介する市の施設で、漢字用・仮名用・水墨画用の鈴鹿墨をそろえて販売している。入館無料で、月曜(祝日の場合は翌日)と年末年始は休館。購入先を見る →PR
体験施設
鈴鹿市伝統産業会館
三重県鈴鹿市寺家3-10-1
1983年に鈴鹿市が設けた施設で、古墨や木型、膠や煤などの原料を展示している。鈴鹿墨の職人による実演は第2・第4日曜日に行われるが、休止となる日もあるため公式サイトで確認したい。紹介ビデオ(約25分)も見られる。
詳細を見る →よくある質問
Q. 鈴鹿墨は伝統的工芸品に指定された唯一の墨ですか?
A. 鈴鹿墨は1980年に、墨として初めて国の伝統的工芸品に指定されました。長く「墨では唯一」と紹介されてきましたが、2018年には奈良墨も伝統的工芸品に指定されています。
Q. 墨を長持ちさせるにはどうすればよいですか?
A. 進誠堂によると、使った後はすり口の水分をよく拭き取り、箱にしまうことが大切です。水分が残るとひび割れの原因になります。墨は高温多湿を嫌うため、車の中などに長時間置かないよう注意しましょう。