石州和紙(せきしゅうわし)は、島根県西部の石見(いわみ)地方、主に浜田市三隅町で漉かれている手漉き和紙です。石州とは石見国の別名です。楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)を原料に、竹簀(たけす)を使う「流し漉き」で作られます。なかでも地元産の楮で漉く「石州半紙」は、強靭な紙質で知られ、江戸時代には大坂商人の帳簿用紙として重用されました。1969年(昭和44年)に石州半紙の技術が国の重要無形文化財に指定されました。2014年には本美濃紙・細川紙とともに「和紙:日本の手漉和紙技術」としてユネスコ無形文化遺産に登録されています。石州和紙は1989年(平成元年)に経済産業大臣指定伝統的工芸品(国の伝統的工芸品)となりました。明治時代に6,000戸を超えた製造業者は減り、現在は4軒の工房が地元の楮にこだわって伝統を守っています。
発祥
石州和紙の起こりについては、万葉歌人の柿本人麻呂が石見国に赴任した際、民に紙漉きを教えたという伝承があります。この話は、寛政10年(1798年)に刊行された『紙漉重宝記(かみすきちょうほうき)』に記されたものです。著者の国東治兵衛は石見の紙問屋で、石見半紙の普及に努めた人物です。一方、文化庁の解説では、石見国では10世紀初めにはすでに製紙が行われていたとされています。
歴史
江戸時代には浜田藩や津和野藩で紙漉きが盛んになり、浜田藩は石州和紙を藩の財源として管理しました。石州で漉かれる「半紙」という規格の紙は大坂の商家で帳簿に使われ、石州半紙の名が広まります。工程を絵図入りで解説した『紙漉重宝記』も、産地の発展を支えました。1889年(明治22年)に6,377戸あった製造業者は、1948年(昭和23年)には279戸に減っています。2009年には石州半紙が単独でユネスコ無形文化遺産に登録され、2014年に拡張する形で現在の登録となりました。
特徴
石州和紙の最大の特徴は、強くて粘りのある紙質です。石州半紙は、楮の表皮の内側にある甘皮(あまかわ)を残して使うため、繊維が強靭になります。紙肌はやや黒っぽいものの、書いても字がにじみにくいとされます。黄みがかった色合いは、時間がたつにつれて白く美しくなります。長期の保存に耐えるため、文化財の修復や書画用紙、障子紙に使われるほか、石見神楽の面や大蛇(おろち)の胴の材料にもなっています。
技法
流し漉き
水に紙料と、トロロアオイの根から取った粘液を混ぜ、簀桁ですくっては揺らして繊維を絡ませ、紙を漉く技法である。石州和紙では竹簀を使い、前後の動きだけで漉き上げる。粘液は繊維を水中にほどよく散らし、重ねた紙をはがしやすくする役目も持つ。
甘皮を残す原料処理
楮の黒い表皮を包丁で一枚ずつ削り取る「黒皮そぞり」で、その内側の甘皮を残す処理である。文化庁は、この方法に代表される自然の素材を生かす技法が、石州半紙の強靭な紙質を生むとしている。原料には3年間育てた楮を用いる。
使用される素材
制作工程
- 1
削皮(黒皮そぞり)
水に浸して柔らかくした楮の皮から、表皮を包丁で一枚ずつ削り取る。
- 2
煮熟(しゃじゅく)
削った白皮を水洗いし、ソーダ灰を入れた釜で煮て柔らかくする。
- 3
ちり取り
煮た原料から、残った不純物を丁寧に取り除く。
- 4
打解(叩解)
原料を叩いて繊維をほぐし、紙のもとになる紙料にする。
- 5
抄造(紙漉き)
漉き舟に水と紙料、トロロアオイの粘液を入れてかき混ぜ、竹簀で流し漉きをする。
- 6
乾燥
漉き上げた紙を一枚ずつはがし、天日などで乾かす。
- 7
選別
厚さやムラ、傷を一枚ずつ確かめて選り分ける。
| 主な産地 |
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|---|
職人・工房
西田和紙工房
浜田市三隅町古市場の工房。初代の作三が文化・天保のころに始めたとされ、七代の西田誠吉、八代の西田勝へと続く。地下水と地元の楮・三椏・雁皮を使い、原料の加工から自家工房で行う。文化財修復用の紙や神楽用の紙も漉く。
公式サイト →石州和紙久保田
浜田市三隅町古市場の工房。代表の久保田彰は1950年生まれで、1974年に父の久保田保一に師事して紙漉きを始めた。石州和紙協同組合の代表理事、石州半紙技術者会の副会長を務め、石州和紙の伝統工芸士に認定されている。
公式サイト →西田製紙所
浜田市三隅町古市場の工房。楮・三椏・雁皮・トロロアオイを原料に、原料づくりから手作業で和紙を漉く。釜の燃料には薪を使う。石州半紙や雲龍紙、金銀箔で飾った書道用の料紙のほか、懐紙や便箋、名刺なども作る。
公式サイト →工房かわひら
浜田市三隅町古市場の工房。春から秋は楮やトロロアオイを育て、冬は紙を漉く暮らしを代々続け、原料の栽培から製品までを一貫して手がける。美術用・建材用・文化財修復用などのオーダーメイド和紙にも応じる。
公式サイト →購入方法
- 石州和紙会館
- 浜田市三隅町古市場589にある、石州和紙の拠点施設。2008年10月に開館し、入館は無料。常設展示で紙漉きの工程や歴史資料を紹介し、石州和紙の販売も行う。休館日は月曜(祝日の場合は翌平日)と年末年始。購入先を見る →PR
- 各工房の通信販売・注文
- 西田和紙工房は公式サイトで通信販売を行っている。工房かわひらは注文フォームで製品の購入やカスタムオーダーを受け付け、西田製紙所はメールや電話で注文を受ける。用途に合わせた紙の相談もしやすい。購入先を見る →PR
- 石州和紙協同組合
- 浜田市三隅町古市場683-3に事務局を置く産地組合(電話0855-32-1166)。工房かわひら、石州和紙久保田、西田和紙工房、西田製紙所の4工房が加盟しており、製品や生産者について尋ねる窓口になる。購入先を見る →PR
体験施設
石州和紙会館 紙漉き体験
島根県浜田市三隅町古市場589
併設の工房で紙漉きを体験でき、漉いた和紙はその場で持ち帰れます。2024年4月改定の料金(税込)は、はがき判2枚770円、流し漉きA3判1枚1,650円、色紙判2枚1,980円などです。要予約で、5人までなら所要30分〜1時間程度です。
詳細を見る →西田製紙所 和紙づくり体験
島根県浜田市三隅町古市場1752
公式サイトに、2点を漉く初心者コースや大判の創作和紙を漉くコース、楮の処理から体験する職人コースが掲載されています。土・日・祝日が中心で、2日前の18時までに予約が必要です。料金は掲載時期が不明なため、予約時に確認すると安心です。
詳細を見る →工房かわひら 工房見学・手漉き体験
島根県浜田市三隅町古市場683-3
原料の栽培から一貫して和紙を作る工房で、見学と手漉き体験を受け付けています。予約は公式サイトの問い合わせフォームから行います。
詳細を見る →よくある質問
Q. 石州和紙と石州半紙はどう違いますか?
A. 石州和紙は、石見地方で漉かれる和紙の総称で、楮紙・三椏紙・雁皮紙などを含みます。石州半紙はそのうち、地元産の楮を原料に伝統技法で漉く楮紙です。国の重要無形文化財で、石州半紙技術者会の会員が技術を受け継いでいます。
Q. 柿本人麻呂が始めたというのは本当ですか?
A. 江戸時代の『紙漉重宝記』に、人麻呂が石見の民に紙漉きを教えたと記されていることによる伝承で、史料で確かめられた話ではありません。ただ人麻呂は石見で神様として敬われ、紙漉きに携わる人々にとっては紙の神様ともされてきました。