大阪浪華錫器(おおさかなにわすずき)は、大阪市などで作られている錫(すず)の器です。錫は金や銀に次ぐ貴重な金属で、古くは宮中の食器や神社仏閣の神仏具に使われてきました。錫器づくりは京都で起こったとされ、江戸時代中期には大坂が一大産地となります。心斎橋や天神橋、天王寺に錫屋が集まり、酒器や茶器が作られました。溶かした錫を型に流し込む「鋳込み」と、ろくろで削って形を整える「ろくろ挽き」が中心の技法です。錫は酸化しにくく、酒の口当たりをまろやかにするといわれ、気密性が高いため茶筒にも向きます。1983年(昭和58年)に国の伝統的工芸品に指定されました。現在は大阪錫器株式会社が技術を受け継ぎ、伝統的な技法による国内の錫器生産の約7割を担っています。
発祥
錫器は約1300年前、遣隋使や遣唐使によって日本に伝わったとされ、正倉院には錫製の薬壺などが残ります。鎌倉時代初期に栄西が宋から茶壺づくりの職人を連れ帰ったことを、錫職人のルーツとする説もあります。宮中では酒を「おすず」と呼び、錫器が主に酒器として使われたことがうかがえます。錫器の製造は京都で起こったとされ、17世紀中ごろには五条通周辺などに「すず屋」が集まっていました。
歴史
延宝7年(1679年)刊行の大坂案内『難波雀』には「錫引」の記述があり、早くから大坂で錫器が作られていたとされます。正徳4年(1714年)には、京都の錫師に学んだ初代半兵衛が心斎橋で「錫半」を開きました。最盛期の大正末期から昭和初期には、大阪で300人を超える職人がいたといわれます。戦争で職人や材料を失いましたが、戦後も技術は受け継がれ、1983年に国の伝統的工芸品に指定されました。
特徴
錫は融点が約230度と低く、加工しやすい金属です。酸化しにくく錆びにくいうえ、酒の雑味を抑えて口当たりをまろやかにするといわれます。気密性が高く、湿気の多い場所でも中身を守るため、茶筒にも向きます。茶筒は本体と蓋を一つずつ合わせて作るため、組み合わせを変えるとはまらないほど精密です。ろくろで削った面には、錫ならではの落ち着いた白い輝きが生まれます。
技法
鋳込み
鍋で溶かした錫(職人は「湯」と呼ぶ)を、柄杓で鋳型に注ぐ。鋳型の温度が低いとすぐ固まるため、何度も注いでは鍋に戻し、温度と抜くタイミングを見極める。鋳型は石・土・金属などで作られ、数千個に及ぶ。
ろくろ挽き
鋳込んだ素材をろくろに据え、カンナで鋳肌を削って形を整える、錫器づくりの中心となる工程。荒削りから仕上げまでカンナを使い分け、トクサや椋(むく)の葉で磨いて艶を出す。
加飾(くさらし・槌目打ち)
「くさらし」は、漆などで絵を描いた器を硝酸液に浸し、描いていない部分を腐食させて梨地にする技法。漆を塗っては拭くことを繰り返し、模様を浮かび上がらせる。金槌で叩いて表面に凹凸をつける槌目打ちもある。
使用される素材
制作工程
- 1
溶解・鋳込み
錫の地金を溶かし、内側に砥の粉を塗った鋳型に流し込む。固まったら型から抜き取り、はみ出した部分を切り取る。
- 2
ろくろ挽き
ろくろで鋳肌を削り、製品の形に整える。花瓶など一つの型で作れないものは、上下を別々に削ってから接合する。
- 3
中仕事・加飾
持ち手や注ぎ口などの部品を取り付け、切る・曲げる・槌目を付けるといった加工をする。必要に応じて、くさらしや漆での着色を施す。
- 4
仕上げ
ろくろで艶を出し、裏底に銘を打って仕上げる。簡単なものは1日、複雑なものは1か月ほどかかる。
| 主な産地 |
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職人・工房
大阪錫器株式会社
1949年(昭和24年)設立で、大阪市東住吉区田辺に工房を構える。技術の源流は、江戸時代後期に心斎橋で錫屋を開いた芝伊兵衛にさかのぼるとされる。伝統工芸士5名を含む職人が在籍し、伝統工芸士の今井達昌さんらが、酒器や茶器のほか、タンブラーなど現代の暮らしに合う器も手がけている。
購入方法
- 大阪錫器の製品(百貨店・通販など)
- 大阪錫器の酒器や茶器は、百貨店や通販サイトなどで扱われている。ちろり(酒を温める器)とぐい呑みの酒器セットは、1万5,000〜2万円台程度から。取扱店は大阪錫器(電話06-6628-6731)に確認するとよい。
体験施設
大阪錫器 錫器鎚打ち体験
大阪府大阪市東住吉区田辺6-6-15
大阪錫器株式会社で、錫の表面を金槌で叩いて模様を付け、オリジナルのぐい呑みやタンブラーを作れる。大阪観光局の公式サイトでも紹介されている。料金や日程は事前に問い合わせて確認したい。
よくある質問
Q. 錫の器でお酒がおいしくなるといわれるのはなぜですか?
A. 錫の器に注ぐと酒の雑味が抜け、口当たりがまろやかになるといわれます。大阪・道頓堀の老舗おでん店「たこ梅」は、昔から錫のタンポ(燗をつける器)と上燗コップで熱燗を出しています。店では、錫に注ぐと酒が冷めにくく、口当たりが滑らかになると紹介しています。
Q. 錫の茶筒はなぜお茶の保存に向いているのですか?
A. 錫は気密性が高く、湿気の多い場所でも中身を守るためです。茶筒は本体と蓋を一つずつ合わせて手作りするため、ほかの組み合わせでははまらないほど精密に仕上がります。錫製の茶筒を水に浸けても中に水が入らないといわれ、茶葉の香りを長く保つとされます。