
名塩紙(なじおがみ)は、兵庫県西宮市塩瀬町名塩で漉かれている手漉き和紙です。雁皮(がんぴ。ジンチョウゲ科の低木で、和紙の原料)の繊維に、地元で採れる泥土を混ぜて漉く独特の技法で知られます。泥を含むため虫がつきにくく、日焼けや変色をしにくく、紙の伸び縮みも少なくなるといわれます。技術は越前(福井県)から伝わったとされ、江戸時代には「名塩千軒」と呼ばれるほど紙漉きで栄えました。藩札や襖・屏風の紙として重宝され、現在も金箔などを打ち延ばす「箔打紙(はくうちがみ)」の原紙や、襖用の「間似合紙(まにあいし)」が作られています。二条城や西本願寺などの文化財修復にも使われてきました。1983年に兵庫県の無形文化財、1993年に県の伝統的工芸品に指定されました。2002年には谷野武信氏が国の重要無形文化財「名塩雁皮紙」の保持者に認定されています。
発祥
名塩の紙漉きは、越前から伝わった技術に始まるとされます。広く知られる言い伝えでは、名塩の東山弥右衛門が越前で製紙家の婿養子となって技を身につけ、名塩に戻って紙漉きを始めたといいます。伝来の時期は、文明年間(1469〜1487年)とする説から慶長・元和年間(1596〜1624年)とする説まで幅があります。1855年には、紙漉きに携わる人々が弥右衛門をたたえる頌徳碑を建てました。
歴史
1638年刊の俳諧書『毛吹草』には、名塩の産物として「名塩鳥子」が挙げられています。日焼けせず長く保存できることから、江戸時代中ごろからは近畿・中国地方の藩札の紙に使われました。高級な襖や屏風の上張り・下張り用としても需要が高く、名塩は「名塩千軒」と呼ばれるほど栄えます。終戦時には25〜26軒の製紙業者がありましたが、戦後の暮らしの変化や開発で減っていきました。今では伝統の和紙を漉く工房はわずかです。
特徴
名塩紙の最大の特徴は、雁皮に地元の泥土を混ぜて漉くことです。泥は名塩の岩盤から採られ、白い東久保土、微黄色の天子土、薄褐色の蛇豆土、青い土の色の異なる4種が使い分けられます。泥を混ぜることで虫害を防ぎ、熱に強く、伸び縮みや変色の少ない紙になるとされます。ネリ(紙料に加える粘液)にはノリウツギが使われます。現在の主な製品は、箔打ち原紙と生漉(きずき)間似合紙です。
技法
泥土の漉き込み
名塩の岩盤から採った色の異なる泥を綿の袋でこし、雁皮の紙料に混ぜて漉く。西宮市の講座では、名塩産の凝灰岩(火山灰が固まってできた岩)を原料に加えて紙を漉いている。泥の種類によって紙の色合いが変わる。
箔打紙の原紙
箔打紙は、金箔や銀箔を薄く打ち延ばすときに箔を挟む紙。金箔の産地では、名塩産などの手漉き和紙を原紙とし、稲わらの灰汁・柿渋・卵白などを混ぜた液に浸して乾かす作業を繰り返して仕上げる。名塩には箔打紙を専門に漉く製紙所がある。
使用される素材
制作工程
- 1
皮むき・黒皮取り
雁皮の皮をむき、表面の黒皮を細かく取り除いて白皮にする。根気のいる手作業である。
- 2
煮熟・叩解
白皮を釜で炊いて柔らかくした後に洗い、叩いて繊維を細かくする「叩解(こうかい)」を行う。残った不純物は手作業で取り除く。
- 3
紙漉き
紙料に名塩産の泥土を加えて紙を漉く。加える泥の種類を変えることで、色合いの異なる紙ができる。
- 4
板干し
漉いた紙を干し板に張って乾かす。西宮市の講座では、2日間乾かした紙を干し板からはがして仕上げている。
| 主な産地 |
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職人・工房
谷徳製紙所
西宮市名塩2-2-23にある製紙所。2002年に国の重要無形文化財「名塩雁皮紙」の保持者に認定された谷野武信氏の工房で、名塩雁皮紙の全種類を手がける。紙は二条城や西本願寺、桂離宮など文化財の修復に使われてきた。
馬場製紙所
西宮市名塩1-21-18にある、明治初めから続く製紙所。4代目の馬場和比古氏は箔打紙の製造を専門とし、2011年に伝統的工芸品産業大賞の功労賞を受けた。名塩紙技術保存会の会員で、名塩和紙学習館の紙すき推進委員も務める。
体験施設
名塩和紙学習館
兵庫県西宮市名塩2丁目10番8号
1989年に建てられた西宮市郷土資料館の分館。2階で名塩紙の歴史や道具を展示し、入館は無料(月曜・年末年始休館)。紙すき講座は中学生以上が700〜1,000円程度で、はがきや市の申請フォームで申し込む。団体実習は1か月前までに電話予約。
詳細を見る →よくある質問
Q. なぜ紙に泥を混ぜるのですか?
A. 泥を混ぜることで虫がつきにくく、熱に強く、伸び縮みや変色の少ない紙になるためです。日焼けせず長く保存できるので、藩札や襖、文化財の修復に重宝されてきました。
Q. 名塩紙は金箔づくりとどう関係していますか?
A. 金箔は、箔打紙という紙に挟んで薄く打ち延ばして作ります。その原紙として名塩産などの手漉き和紙が主に使われています。名塩には箔打紙を専門に漉く製紙所もあります。