甲州水晶貴石細工は、水晶やめのう、ひすいなどの天然石に彫刻を施し、丹念に磨き上げて作る工芸品です。甲府市とその周辺が産地で、香炉や仏像、龍や鷹の置物から、ネックレスや指輪などの装身具まで作られています。起源は約1100年前、御岳昇仙峡の奥地にある金峰山で水晶の原石が見つかったことと伝えられます。江戸時代の天保年間には京都から職人が招かれ、鉄板の上に金剛砂(こんごうしゃ:研磨用の硬い砂)をまいて水晶を磨く方法が伝わりました。水晶は硬度が高く、彫って磨き上げるには長い時間がかかります。この研磨の技術は宝石の加工へと広がり、山梨が国内有数の宝飾産地となる礎を築きました。1976年に国の伝統的工芸品に指定されています。甲府市の山梨ジュエリーミュージアムでは、水晶から始まった山梨のジュエリーの歴史に触れられます。
発祥
甲府の水晶細工は、約1100年前に御岳昇仙峡の奥地、金峰山で水晶の原石が見つかったことに始まると伝えられます。山梨では明治期まで、県北部の金峰山一帯で水晶が採掘されていました。江戸時代の天保年間には京都から玉造りの職人が招かれ、鉄板に金剛砂をまいて水晶を磨く方法が伝わります。この技術は、甲府市北部にある金櫻神社の神官たちが学んだとされています。
歴史
安政年間(1850年代)には、水晶やひすいの数珠、帯留め、根付などの注文を受けた記録が残ります。明治時代には国の殖産興業策で甲府に勧業場が設けられ、加工道具も発達しました。明治中期にはブローチ用の水晶のカットも始まります。大正初期には南米やアフリカから原料を輸入し、設備の電化で技術がさらに高まりました。戦後は輸出が伸び、昭和50年代のドルショック以降は国内向けの美術品へと軸を移しています。
特徴
水晶は硬度が高く、加工には長い時間がかかります。天然石は種類によって組成が異なり、大きさや形にも限りがあります。そのため職人には、石の特性を読む力と細心の注意、根気強さが求められます。深く彫り込む深肉彫りや、模様を浮き立たせる浮き出し彫りなどで、透明感と立体感のある作品に仕上げます。磨き抜かれた石の輝きが、甲州水晶貴石細工の魅力です。
技法
深肉彫り・浮き出し彫り
石を深く彫り込んで立体的な形を表すのが深肉彫り、図柄を浮き上がらせるように彫るのが浮き出し彫りです。龍や鷹、仏像などの置物では、こうした彫りの技法で細部まで表現します。
段階的な研磨
研磨は荒摺り、中摺り、仕上摺りと段階を追って進めます。使う研磨剤の粒は直径0.5mmから0.05mm、0.005mmへと細かくなります。最後に酸化クロームで磨き、水晶ならではの透明感と光沢を引き出します。
使用される素材
制作工程
- 1
石取り
作品に合う原石を選び、使う部分を見極める。
- 2
原石切断
原石を作品の大きさに合わせて切り出す。
- 3
原石絵付け
石の表面に、彫り出す形の下絵を描く。
- 4
切り込み・カキ込み
下絵に沿って切り込みを入れ、不要な部分を欠き取って形を出す。
- 5
荒摺・中摺加工
粒の粗い研磨剤から順に使い、形と面を整える。
- 6
仕上摺り加工
直径0.005mmほどの細かな研磨剤で、表面を滑らかにする。
- 7
磨き加工
酸化クロームで磨き、透明感と光沢を出す。
| 主な産地 |
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|---|
職人・工房
山梨県水晶美術彫刻協同組合
甲州水晶貴石細工の職人でつくる組合。伝統工芸士に認定された組合員が、組合で管理してきた貴重な原石を使い、一点ずつ手作業で作品を仕上げている。
体験施設
山梨ジュエリーミュージアム
山梨県甲府市丸の内1-6-1 山梨県防災新館1階
宝飾産地・山梨の歴史や技術を紹介する県の施設。水晶の装身具や職人の作品などを、テーマを替えて展示している。入館無料で、開館は10時から17時30分、火曜休館。甲府駅南口から徒歩7分ほど。
昇仙峡クリスタルサウンド
山梨県甲府市猪狩町312
2009年に開館した水晶博物館。水晶を中心に約300点を展示し、研磨の歴史や伝統工芸を紹介している。入館無料で、開館は9時から17時。鉱石のアクセサリーや誕生石の販売もある。
よくある質問
Q. 山梨が宝飾品の産地になったのはなぜですか?
A. 江戸時代後期に京都から水晶の研磨技術が伝わり、甲府周辺で水晶細工が盛んになりました。技術は水晶美術彫刻と宝石研磨に分かれて発展し、明治にはブローチ用の水晶カットも始まります。こうした積み重ねが、国内有数の宝飾産地・山梨につながりました。
Q. 今も山梨で水晶は採れますか?
A. 山梨では明治期まで、県北部の金峰山一帯で水晶が採掘されていました。大正初期からは南米やアフリカ諸国から原料を輸入するようになり、設備の電化とともに、より精密な加工ができるようになりました。
Q. 「山梨貴宝石」とはどう違うのですか?
A. 山梨県は、宝石を研磨して装身具などに仕上げる山梨貴宝石も郷土伝統工芸品に指定しています。どちらも水晶細工から始まった技術で、水晶美術彫刻と宝石研磨に専門が分かれて発展しました。甲州水晶貴石細工は、彫刻が主体の美術工芸品です。