甲州武者のぼり・鯉のぼりは、山梨県南アルプス市で手染めされている端午の節句ののぼりです。戦国時代の戦陣にひるがえった旗指物(はたさしもの)や吹流しが、江戸時代後半に節句を祝うのぼりとして立てられるようになったのが起こりとされます。山梨では、子どもが武田信玄公のように強く育つよう願って武者のぼりが立てられてきました。その製作を受け継ぐのが、江戸時代末期に藍染めから始まった南アルプス市古市場の井上染物店です。木綿の布に糊で輪郭を描き、顔料や染料を重ねる「本染め」で、勇ましい武者や鯉を色鮮やかに染め上げます。すべて手作業で、完成までに2週間以上かかるといいます。平成6年(1994年)に山梨県郷土伝統工芸品に指定されました。近年は、室内に飾れる小さな鯉のぼりなども作られています。
発祥
甲州武者のぼりの源流は、戦国時代の旗指物や吹流しにあります。天下泰平を目指す戦陣にひるがえったこれらの旗が、江戸時代後半には端午の節句を祝うのぼりとして立てられるようになりました。武田信玄ゆかりの山梨では、男の子が信玄公のように強くたくましく育つよう願い、武者絵を染めたのぼりを掲げる風習が根付きました。
歴史
井上染物店の創業は江戸時代末期で、初代の井上品兵衛が始めた藍染めにさかのぼります。二代目の文左衛門が基礎を固め、幕末の1860年頃には伝統の染めの技に武者のぼりと鯉のぼりを取り入れました。四代目孫太郎の代には、数十人の職人を抱える店に成長します。五代目豊、六代目豊彦を経て、平成6年(1994年)に山梨県郷土伝統工芸品の指定を受けました。現在は七代目の井上展弘さんが技を受け継いでいます。
特徴
甲州武者のぼり・鯉のぼりは綿100%の生地を使い、すべて手作業で染められます。もち米の粉と米ぬかを練った糊で下絵の輪郭を描き、豆汁(ごじる)を塗ってから色を重ねるため、武者の姿が立体的に浮かび上がります。井上染物店では、色を柔らかく重ねる独自の「井上ぼかし」が特徴です。図柄は川中島の戦いや富士の巻狩りなどで、代々受け継がれた下絵が使われています。
技法
糊置き
もち米の粉と米ぬかを配合し、蒸しては練り続けて粘りを整えた糊を、筆で下絵に沿って置いていく工程です。糊を置いた部分は色が入らず、輪郭線として残ります。のぼりの出来を左右する、特に重要な工程とされます。
井上ぼかし
豆汁を塗ってから色を重ねる染付の段階で施す、井上染物店ならではの個性的な色付けです。色の濃淡をやわらかくぼかすことで、染め上がった武者や鯉の姿に深みが生まれます。代々の職人が受け継いできた表現です。
使用される素材
制作工程
- 1
糊づくり
もち米の粉と米ぬかを練って蒸し、さらに練り続けて糊を作る。
- 2
精練・下絵写し・糊置き
布を精練して下絵を写し、糊で輪郭線を描く。
- 3
豆汁引き・染付・色止め
豆汁を塗ってから色を重ね、色止めをする。
- 4
水洗い・乾燥
糊を洗い流して干す。昔は河原で水洗いをしていた。
- 5
仕立て
鯉のぼりは裁断した布を縫い合わせ、武者のぼりは装飾を加えて仕上げる。
| 主な産地 |
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職人・工房
井上染物店(七代目 井上展弘)
江戸時代末期創業の、南アルプス市古市場にある染物店。七代目の井上展弘さんは2004年の大学卒業と同時に染め職人の道に入り、父の病気で修業半ばから独り立ちした。武者のぼり・鯉のぼりのほか、神社のぼりや暖簾、手ぬぐいも染める。
公式サイト →購入方法
- 井上染物店(本染甲州武者のぼり)
- 縦9m・横90cmの5間サイズが人気で、縦1m60cmのミニサイズや名前のぼりもある。図柄は川中島の戦いと富士の巻狩り。別料金で名前や家紋を入れられる。営業は9時〜17時で、水曜・日曜定休(2〜4月は水曜のみ)。購入先を見る →PR
- 井上染物店(本染甲州鯉のぼり)
- ポールに立てる3間〜1.5間のスタンダードセットのほか、ベランダ・庭園セット、ガーランドセット、65cmのコンパクト・室内セットがある。人気は2.5間セット。吹き流しには別料金で名前や家紋を入れられる。購入先を見る →PR
- 井上染物店(ミニ鯉のぼり chiccoi)
- 「cotton×colorful×compact」をコンセプトにした、体長30cmの小さな鯉のぼり。綿100%の手染めで、室内にも飾りやすい。1匹4,400円程度から購入できる。購入先を見る →PR
よくある質問
Q. 武者のぼりにはどんな絵柄がありますか?
A. 井上染物店の武者のぼりでは、武田信玄と上杉謙信が戦った「川中島の戦い」と、源頼朝が催した「富士の巻狩り」が代表的な図柄です。川中島には堂々とした人生を、富士の巻狩りには勇気を授かるようにとの願いが込められています。
Q. 「本染め」とプリントののぼりは何が違いますか?
A. 本染めは、糊で輪郭を描いた木綿の布に、職人が手作業で色を重ねていく染め方です。糊置きから水洗い、仕立てまで手作業で進めるため、1枚に2週間以上かかることもあります。色のぼかしや筆の勢いに、手仕事ならではの表情が出ます。