紀州箪笥(きしゅうたんす)は、和歌山市を中心に作られている桐箪笥です。白く軽く柔らかな桐材を使います。桐は湿気の多い時期には水分を吸い、乾くと水分を出すため、箪笥の中の湿度を一定に保ちやすく、着物や大切な品の保管に重宝されてきました。本体と引き出しの間にすき間がないほど精密に組まれ、一つの引き出しを押し込むと、中の空気に押されて別の引き出しが出てくるほど気密性が高いのが特徴です。最も古い記録は江戸時代末期のもので、和歌山城の再建の際に徳川家の道具類を作ったことが文書に残ります。明治時代には大阪圏の需要を支える産地として発展し、南海鉄道の開通で輸送が便利になると生産がさらに伸びました。造材から仕上げまで約15の工程を、職人が手仕事で進めます。1987年(昭和62年)に国の伝統的工芸品に指定されました。
発祥
紀州箪笥の始まりははっきりしませんが、江戸時代の和歌山城下には木材を加工する職人が集まっていました。最も古い記録は江戸時代末期のものです。1846年(弘化3年)に和歌山城の天守が落雷で焼け、1850年に再建された際、徳川家の道具類を作ったことが文書に残ります。城の道具を手がけた木工の技が、やがて暮らしの箪笥づくりへと生かされていきました。
歴史
江戸時代末期には、現在の和歌山市で桐箪笥の製作技術が確立したと考えられています。明治時代には大阪圏の需要を満たす「地廻り(じまわり)産地」として発展し、南海鉄道の開通で貨物輸送ができるようになると、生産が一層盛んになりました。大正時代には前桐・三方桐・総桐など種類が広がります。1987年に国の伝統的工芸品に指定されましたが、嫁入り道具の習慣が薄れ、事業者は減っています。
特徴
紀州箪笥は、すべての部材に桐を使う「総桐(そうぎり)」の箪笥です。桐は軽く、湿気に強く、熱を伝えにくいため、衣類の保管に向いています。組み立てには鉄釘を使わず木釘を用い、正確な組手で気密性を高めます。仕上げは、桐の白い木肌を際立たせる「砥の粉(とのこ)仕上げ」と、木目を模様のように浮き上がらせる「焼き桐仕上げ」が代表的です。
技法
木釘と組手
組み立てには鉄の釘を使わず、職人が手作りした木釘で部材を留める。正確な組手と合わせて本体と引き出しのすき間をなくし、引き出しを押すと別の引き出しが出るほどの気密性を生む。
砥の粉仕上げ
砥の粉を使って表面を仕上げる伝統的な方法で、桐の白い木肌を際立たせる。シガ木工は県工業技術センターと共同で、砥の粉に色を加えた現代的な彩色の仕上げも開発した。
焼き桐仕上げ
木目を模様のように浮き上がらせる仕上げ。シガ木工の志賀啓二が考案したもので、桐の白さを生かす砥の粉仕上げとは異なる、木目を楽しむ表情の箪笥になる。
使用される素材
制作工程
- 1
造材
桐材のアクを抜き、半年から数年かけて自然乾燥させる。
- 2
木取り・歪みなおし
乾燥させた材から部材を切り出し、熱を加えるなどしてゆがみを直す。板は矧ぎ(はぎ)加工で幅をつなぎ、箪笥の板木地を作る。
- 3
組立
伝統的な組手で本体を組み立てる。鉄釘は使わず、職人が手作りした木釘で留める。
- 4
引出し・盆の加工
本体に合わせて引き出しや盆を作り、すき間なく収まるように仕上げる。
- 5
仕上げ
砥の粉仕上げや焼き桐仕上げで表面を整え、箪笥を完成させる。
| 主な産地 |
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職人・工房
株式会社シガ木工
和歌山市延時にある大正3年(1914年)創業の紀州箪笥メーカー。紀州桐箪笥協同組合の事務局を置く。代表の志賀啓二は塗装部門の伝統工芸士で、焼き桐仕上げを考案し、令和元年度の和歌山県名匠に選ばれた。社内で7人の伝統工芸士を育てている。
有限会社家具のあづま
紀の川市にある明治24年(1891年)創業の桐の専門業者。桐の木を育て、切り出しから製材、製作、塗装まで全工程を自社で行う。代表の東福太郎は紀州箪笥の伝統工芸士で、箪笥の技術を生かした生活雑貨も開発している。
公式サイト →購入方法
- 紀州桐箪笥協同組合(シガ木工内)
- 和歌山市延時13-4のシガ木工内に事務局がある産地の組合。紀州箪笥の製作や購入について問い合わせできる。電話は073-452-2011。
- 有限会社家具のあづま
- 紀の川市の桐専門業者で、桐材の販売と桐箪笥の製造販売を行う。紀州箪笥の技術を生かした生活雑貨も開発し、クラウドファンディングなど新しい売り方にも取り組んでいる。
よくある質問
Q. 桐箪笥が衣類の保管に向いているのはなぜですか?
A. 桐は湿気の多い時期に水分を吸い、乾燥すると水分を出すため、箪笥の中の湿度を一定に保ちやすいとされます。軽く、熱を伝えにくい性質もあり、着物や大切な品の保管に重宝されてきました。
Q. 引き出しを閉めると別の引き出しが出てくるのはなぜですか?
A. 本体と引き出しのすき間がほとんどないほど精密に作られているためです。中の空気の逃げ場がなく、一つを押し込むと空気に押されて別の引き出しが出てきます。気密性の高さを示す紀州箪笥の特徴です。
Q. 砥の粉仕上げと焼き桐仕上げはどう違いますか?
A. 砥の粉仕上げは、桐の白い木肌を際立たせる伝統的な仕上げです。焼き桐仕上げは、木目を模様のように浮き上がらせる仕上げで、シガ木工の志賀啓二が考案しました。