紀州雛(きしゅうびな)は、和歌山県海南市黒江で作られている漆塗りの雛人形です。黒江は紀州漆器の産地として知られ、紀州雛はその木地づくりと漆芸の技を生かして作られます。手のひらに乗るミカンのような丸い木地に本漆を塗り、蒔絵(まきえ)の技法で顔や着物を一体ずつ手描きします。漆器の雛人形として作られるようになったのは昭和初期です。1960年ごろ、和歌山が新婚旅行の定番だった時代には、旅の土産として人気を集めました。2004年(平成16年)に和歌山県知事指定の郷土伝統的工芸品となっています。しかし2016年に人形を作っていた漆器店が廃業し、生産はいったん途絶えました。その後、紀州漆器協同組合の若手が復活に取り組んで7年ぶりに製造を再開し、2024年2月に販売が始まりました。
発祥
紀州雛の起源は古く、5世紀ごろにさかのぼるとする言い伝えもあります。江戸時代には、紀州藩主が黒江の中言神社(なかごとじんじゃ)に参拝した際、紀州雛が献上されたと伝えられます。その後は長く途絶えていましたが、昭和の初め(1930年代初め)に、漆器の町・黒江で郷土の土産品として作られるようになりました。
歴史
1960年ごろ、和歌山は新婚旅行の定番の地でした。和歌浦や白浜、那智勝浦などを訪れた夫婦の土産として、紀州雛は人気を集めます。2004年に県の郷土伝統的工芸品となりましたが、2016年に作り手の漆器店が廃業し、生産が途絶えました。2018年、紀州漆器協同組合の若手有志が「紀州雛復活プロジェクト」を結成します。約6年をかけて工程を確立し、2024年2月に販売を再開すると、1か月足らずで完売しました。
特徴
手のひらに乗る、ミカンのような丸い形が代表的な姿です。こけし型など大小さまざまな形があり、かつての製品は高さ4.5〜13.5cmほどでした。国産の天然木の木地に漆を塗り重ね、蒔絵の技法で顔と着物を一体ずつ手描きします。復活した紀州雛は直径・高さとも約8cmの丸型です。仕上げは、本漆塗り(紺・赤)とウレタン塗装(白・桃色)の2種類があります。
技法
分業制
紀州雛は、木地師、下地師、塗師、蒔絵師がそれぞれの工程を受け持つ分業で作られてきた。復活した紀州雛は2022年12月に商標登録され、海南市内の5つの事業者が、木地づくりから漆塗り、絵付けまでを分担している。
蒔絵による絵付け
塗り上げた人形に、蒔絵師が筆で顔や着物の模様を描く。1体に使う色は7色ほどで、1色塗ったら1日乾かして次の色を重ねる。そのため、絵付けだけで2か月以上かかる場合もある。
使用される素材
制作工程
- 1
成形
木地師が国産の天然木を削り、雛人形の形を作る。本来はエゴノキを使っていたが、手に入りにくくなったため、復活にあたっては割れにくく木目の目立たない木材を探し続けたという。
- 2
下地
下地師が刷毛で下地を塗り、人形の形を補修して整える。下地には渋、漆、膠(にかわ)などを使い分ける。復活後の工程では、下地漆の塗りと乾燥を4回繰り返す。
- 3
中塗り・上塗り
塗師が漆を刷毛やへらで一つずつ塗り重ね、人形を硬く丈夫にする。復活後の工程では、研ぎを挟んで黒漆の中塗りと乾燥を4回重ねてから、上塗りへ進む。
- 4
絵付け
蒔絵師が筆で顔や着物を描く。1色塗るごとに1日乾かして次の色を重ねる。漆の手塗りと手描きの絵付けのため、1対を仕上げるのに3〜4か月かかる。
| 主な産地 |
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|---|
職人・工房
紀州漆器協同組合(紀州雛復活プロジェクト)
海南市黒江を中心とする紀州漆器の組合。2018年末に若手有志が「紀州雛復活プロジェクト」を立ち上げ、青年部を中心に約6年かけて製造工程を確立した。木地づくりには先端の木工機器も取り入れ、現在は全工程を黒江地区で手がける。
池庄漆器店(池原弘貴)
海南市黒江の漆器店。2016年に紀州雛の生産が途絶えた後も客からの問い合わせが続いたことから、池原弘貴が「もう一度作ろう」と決意した。紀州漆器協同組合を巻き込み、2018年末に復活プロジェクトを旗揚げした中心人物である。
購入方法
- 紀州漆器伝統産業会館 うるわし館
- 和歌山県海南市船尾222にある紀州漆器の展示販売施設。復活した紀州雛は当面、紀州漆器協同組合でのみ販売され、同館で購入できる。価格は1対6万円程度。人気が高く、翌年の販売分を予約で受け付けたこともある。購入先を見る →PR
体験施設
紀州漆器伝統産業会館 うるわし館(蒔絵体験)
和歌山県海南市船尾222
紀州雛の絵付けにも使われる蒔絵の技法を体験できる。丸盆・小判盆・弁当箱から選び、下絵を目安に塗料を塗って金銀や色粉を蒔く。土日に実施し、所要約1時間で要予約。開館は10時〜16時30分で、入館は無料。
詳細を見る →よくある質問
Q. 紀州雛はいつでも買えますか?
A. 復活した紀州雛は生産数が少なく、当面は紀州漆器協同組合でのみ販売されます。2024年の販売分は1か月足らずで完売し、翌年分の予約を受け付けました。購入を考えるなら、うるわし館(073-482-0322)に問い合わせると確実です。
Q. 紀州雛はなぜ一度途絶えたのですか?
A. 技術を受け継ぐ人がいなくなり、2016年に人形を作っていた漆器店が廃業したためです。組合の青年部は塗りや蒔絵の技を受け継いでいた一方、木地づくりの経験がなく、形をそろえるのに苦労したといいます。