福山琴(ふくやまこと)は、広島県福山市で作られる琴(箏)です。1985年(昭和60年)に、楽器として初めて国の伝統的工芸品に指定されました。福山市は明治時代以降、琴の生産量で全国一とされ、国内で作られる琴の約7割を占めるといわれます。最高級の桐の乾燥材を使い、熟練の職人がほとんどの工程を手作業で仕上げます。優れた音色、表板にあたる「甲(こう)」の美しい木目、華やかな装飾がそろっていることが、福山琴の魅力とされます。かつては工程ごとに職人が分かれる分業制で量産し、一大産地を築きました。最盛期には市内に約500人の職人がいたといわれますが、現在の製造事業者は6社です。地元では、福山城の築城400年を記念した琴づくりなど、技を受け継ぐ取り組みが続いています。
発祥
福山琴の歴史は、元和5年(1619年)に水野勝成が福山に入り、城を築いた頃に始まるとされます。福山藩では歴代の藩主が謡曲や音曲を奨励し、城下町で歌や音楽が盛んになりました。江戸時代末期には、神辺(現在の福山市神辺町)生まれの箏曲家・葛原勾当(くずはらこうとう、1812〜1882年)が京都で修業して帰郷し、備後や備中で活躍しました。弟子は580人余りに上ったといわれ、琴の需要が高まりました。
歴史
明治時代の初めに琴の本格的な製造が始まり、大正期には工程別の分業制を取り入れて生産量を伸ばしました。音のよい琴を大量に、手ごろな価格で作れるようになり、福山は琴の一大産地になります。琴が嫁入り道具の必需品とされた時代には需要が多く、最盛期には製造業者が約20社ありました。出荷量は昭和45年(1970年)頃に最も多くなっています。2000年には、扱いやすさを重視して全長を約40cm短くした「新福山琴」が開発されました。
特徴
福山琴は、最高級の桐の乾燥材から作られます。会津(福島県)産の桐を使う製作所も多く、原木は屋外で1〜3年ほど自然乾燥させます。伝統的工芸品としての決まりでは、木地に桐を使うことが定められています。甲の裏に「綾杉彫り(あやすぎぼり)」または「子持綾杉彫り」を施すことや、甲と裏板を鏝(こて)で焼き上げることも決まりの一つです。装飾の工程は最も時間がかかり、柏葉(かしわば)と呼ばれる部分の「玉縁巻き(たまぶちまき)」の装飾が特徴とされます。
技法
甲造り(刳り・彫り)
桐材から琴の胴となる甲を削り出し、内側をえぐる「刳り(くり)」で厚みを整える工程である。甲の裏には綾杉彫りや子持綾杉彫りを施す。伝統工芸士の藤井善章は、この厚みの加減が音の良し悪しを決めると語っている。
甲焼き
焼きごてで甲の表面を焼き、木目を浮き立たせるとともに表面を硬くする技法である。焼いた後に磨いてつやを出す。取材記事では、約1200度に熱した焼きごてを使うと紹介されている。福山琴の美しい木目は、この工程から生まれる。
使用される素材
制作工程
- 1
製材
原木の桐を選び、琴の大きさに合わせて挽く。
- 2
乾燥
屋外で1〜3年ほどかけて自然乾燥させる。
- 3
甲造
甲をえぐり、裏に彫りを施し、焼いて磨く。
- 4
装飾
竜角や柏葉などに飾りを付け、口前に蒔絵を施す。
- 5
仕上げ
金具を付け、音を確かめながら調整する。
| 主な産地 |
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|---|
職人・工房
藤井琴製作所
福山市御幸町下岩成の琴製作所で、責任者の藤井善章は伝統工芸士である。会津産の桐を使い、木質を見ながら音むらのないよう甲を削る。取材記事では、甲の厚みをあえて均一にせず、澄んで遠くまで響く音を目指すと紹介されている。琴の修理も全国から受け付ける。
公式サイト →新和琴楽
福山市御幸町上岩成の琴製作所である。牧本楽器で修業した和田善亀が1936年に独立して設けた和田楽器店を前身とする。同社は、福山の琴製作の技術が牧本長蔵ら江戸時代以来の琴師から受け継がれてきたと紹介している。13絃琴や17絃琴を作る。
公式サイト →小田琴製作所
1968年創業の琴製作所で、小田和幸と2代目の智之の親子が琴の製造と修理を手がける。智之は職業訓練校で木製家具づくりを学び、家具関連の会社を経て琴職人の道に入った。2022年には、福山城の天守前広場で伐採された桐を使い、築城400年記念の琴を組合などと共同で制作した。
公式サイト →購入方法
- 藤井琴製作所のインターネット販売
- 藤井琴製作所は公式サイトで琴を販売しており、遠方へも郵送できる。会津材や北米材のクリ甲の琴が、税込・送料込で45万円程度から掲載されている。希望すれば購入前の試し弾きもできる。購入先を見る →PR
- 内山琴製作所
- 福山市引野町北四丁目11番2号にある琴の製作所である。教材用から演奏用の箏まで手づくりで製造販売し、17絃や20絃、25絃の琴も扱う。通販のほか、受注生産や修理、琴教室にも対応している。購入先を見る →PR
- 福山邦楽器製造業協同組合
- 福山琴の産地組合で、福山市西町2-10-1の福山商工会議所内に事務局がある(電話084-921-2349)。「福山琴」の地域団体商標の権利者でもあり、製造事業者について尋ねる窓口になる。購入先を見る →PR
体験施設
藤井琴製作所 工場見学
広島県福山市御幸町下岩成735-1
一般の人や学生を対象に、無料で工場見学を受け付けています。甲づくりや装飾から完成までの工程を、熟練の職人が説明します。営業時間は8:00〜17:00で、第2・第4土曜、日曜、祝日は休みです。見学は事前に問い合わせて申し込みます。
詳細を見る →よくある質問
Q. 「琴」と「箏」は違う楽器ですか?
A. 厳密には別の楽器です。現在一般に「琴」と呼ばれているのは、奈良時代に伝わった13本の弦を持つ「箏(そう)」のことです。本来の「琴(きん)」は、箏とは異なる楽器を指します。福山琴も、この箏にあたります。
Q. 「新福山琴」とはどんな琴ですか?
A. 2000年に開発された、全長約140cmの短い琴です。通常の琴(約180cm)より約40cm短く、持ち運びや収納がしやすくなっています。弦を金具に巻く仕組みのため、専門家でなくても弦を張り替えられます。福山市内の中学校の授業でも使われていると報じられています。